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ぽっぺん日記@karashi.org


2008-11-01(Sat) [長年日記] この日を編集

_ 田母神・元航空幕僚長の論文が300万円に相当するとは思えない件

アパグループ第一回「真の近現代史観」懸賞論文募集に掲載されていたので読んでみたが、正直なところ、「こんなんで300万貰えるのか!?」というデキ。

軍ヲタの人なら、すぐにでっち上げられるんじゃないだろうか。 本人が書く内容を信じるかどうかは別として。

主催者側は、本人の肩書は関係なかったってなことを言っているみたいだけど、大いに関係あったよねぇ、たぶん。

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2008-11-02(Sun) [長年日記] この日を編集

_ ポワンカレ予想に関わった数学者たちの姿を描く一冊──100年の難問はなぜ解けたのか―天才数学者の光と影 (NHKスペシャル)(春日 真人) 100年の難問はなぜ解けたのか―天才数学者の光と影 (NHKスペシャル)(春日 真人)

先日読んだ『世界の測量』の主人公のひとり、カール・フリードリヒ・ガウスは「微分幾何学」の創始者とされている。 その「微分幾何学」と双璧をなすのが、フランス人哲学者にして数学者アンリ・ポアンカレが大系づけた「位相幾何学」(トポロジー)である。

ポアンカレが生み出し、100年に渡って数学者たちを悩まし続けた「ポアンカレ予想」が解き明かされる歴史と、その解明者である数学者に迫ったのが本書。 昨年末に放送されたNHKスペシャルの書籍化である。

1904年、アンリ・ポアンカレはある命題を自分の論文の最後に記した。

「単連結な三次元閉多様体は、三次元球面と同相と言えるか」

数学的素養のない人間にとっては、なんのことだがさっぱり意味が分からないが、一般人向けにそれは次のように訳される。

宇宙に巡らせたロープが回収できるなら、宇宙は丸いと言えるはずだ。

これが「ポアンカレ予想」である。

100年間に渡り解かれることのなかったこの命題は2002年、ロシア人数学者グレゴリ・ペレリマンが突如発表した論文によって解き明かされる。 この功績を讃えられペレリマンにノーベル賞以上に権威があると言われる数学会最高の栄誉、フィールズ賞が与えられることになったが、彼はその受賞を辞退し、100万ドルの賞金も受けとらずに姿を隠した。

なぜ、ペレリマンは姿を隠さなればいけないかったのか。 そして、なぜ、ポアンカレ予想はこれまで解かれなかったのか。 これまでポアンカレ予想に関わってきた数学者へのインタビューを軸に、本書はその歴史ドラマを描いていく。

本書を読み終えて「ポアンカレ予想がなんなのか分かったのか?」と問われれば、「なんとなくどういうものだか理解できたような……」くらいにしか答えられないのだが、とにかく数学者という「人種」がかなり一般からかけ離れた知性の持ち主だということは理解できた。

面白いのは、著者自身もポアンカレ予想について理解できなかったと告白していることだ。 著者はあとがきで次のように述べている。

ご協力くださったどの数学者も、素人のレベルに合わせようと懸命に噛み砕いて話してくださるのだが、その内容が九割がたわからない。(p.225)

数学者たちの話す内容を理解するためには「数学語」という言語を身につける必要があると本文で著者は書いている。

著者の意見には賛成なのだが、私でも少しだけ理解できたのが、1960年代にポアンカレ予想の研究にブレークスルーをもたらした数学者スティーブン・スメール博士の語る内容だ。 四次元や五次元といった高次元をどうやって想像するのだと問われた博士はこう答える。

三次元では、ひとつの点を三つの数で表しますね。座標(X1, X2, X3)です。これが五次元の場合、五つの数(X1, X2, X3, X4, X5)で記述できます。(p.111)

プログラムで言えば、変数を増やすということだろう。 初心者向けのプログラムを解説した本には「変数は値を入れる箱で……」云々といったことが書かれているが、ある程度プログラムを書くようになると、そんなことは意識せず、あくまでも「変数」としか認識しないようになる。 たぶん、それに近いことなのではないかと思う。*1

本書の元になったドキュメンタリーも見たが、どちらが理解しやすかったと言えば、やはりビジュアル的に補完されていたテレビ・ドキュメンタリーに軍配が上がる。 しかし、書籍版も分からないところはじっくり読めるという長所があるので、やはり両者を(読む|見る)ことで相乗的に理解が深まるのではないかと思う。

ちなみにYouTube探したところ、テレビ・ドキュメンタリーがアップされていたので、リンクを貼っておく(ニコ動にもあったようだが、削除されていた)。 視聴するならば、お早めに。


100年の難問はなぜ解けたのか―天才数学者の光と影 (NHKスペシャル) 100年の難問はなぜ解けたのか―天才数学者の光と影 (NHKスペシャル)
春日 真人
日本放送出版協会
¥ 1,365

*1 ロクなプログラムが書けないオレが、こんなことを書くのもおこがましいが。

_ グラコロ同盟の敵

グラコロ非販売店

ブレブレで申し訳ないけど、「グラコロ非販売店」とデカく書いてある。 これってグラコロ同盟の敵じゃね?*1

しかし、これだけデカく掲示するってことはグラコロ注文する人多いんだろうなぁ。

*1 オレ、同盟には入っていないんだけど。


2008-11-03(Mon) [長年日記] この日を編集

_ 「読む」とはなにかを解き明かす一冊──プルーストとイカ―読書は脳をどのように変えるのか?(メアリアン・ウルフ) プルーストとイカ―読書は脳をどのように変えるのか?(メアリアン・ウルフ)

新聞を読み、Webサイトを読み、本を読む。 現代を生きる我々にとって、情報を得る手段のうちでも最も頻繁に行なっているのが「読む」ことである。

では、「読む」とはいったいなんなのか? 人間はいつから「読む」ことをはじめたのか? 「読む」ことはどのような影響を人間に与えているのか? 「読まない」ことによる悪影響はあるのか? 米タフツ大学教授であり認知神経科学と発達心理学を専門とする著者が「読む」という行為を様々な角度から探り、その秘密を解き明かそうとしているのが本書である。

著者は「読む」ことに、二つのアプローチから迫っている。 そのひとつが個人的・知的次元における文字──読書であり、もうひとつが生物学的次元における文字──脳の認識である。 著者はそれぞれのメタファーをフランス人小説家マルセル・プルースト、生物学の発展に貢献してきたイカとして、それが本書のタイトルの由来にもなっている。

原著のサブタイトルはThe STORY and SCIENCE of the READING(=「文字を読む脳の物語と科学」)となっているが、著者は「読む」という行為の中でも、特に読書にフォーカスしている。 邦書のサブタイトルを「読書は脳をどのように変えるのか」としたのは卓見といえるだろう。

驚かされるのは、「読む」ことが人間の脳に生まれながらに備わった機能ではないということだ。

人類はクレイトークンと呼ばれる記号が刻まれた粘土片からはじまり、シュメール文明の楔形文字やエジプトのヒエログリフ(余談だが、この二つの文字大系はまったく別個に生まれたとのことだ)、メソポタミア文明のアッカド語、古代ギリシャのアルファベットへと文字大系を進化させてきた。 元々、「読む」という機能を持たなかった人類は、脳の機能のうちの物体認識回路や視覚回路を再利用することによって、それをなし遂げた。 つまり「ニューロン(脳神経細胞)のリサイクリング」を行なったのである。 再利用された回路は今でも私たちの脳に中で生きている。 それゆえ、非常に単純なクレイトークンのシンボルを見た時でさえ脳は活発に働き出すのだという。

アルファベットを生み出すまでに人類は2000年の時間を必要とした。 それからほとんど脳の構造は変わっていないにも関わらず、現代の子供たちは凄まじいまでのスピードで言語に熟達することが求められている。 たとえば、英語圏の子供であれば、5歳から7歳までの2000日である程度のレベルまでの英語をマスターすることが要求されるのだ。

しかし、それがうまくいっていない。 全米読字委員会の調査によれば、アメリカの子供たちの実に40%が十分な読解力を備えた、流暢と呼べる読み手にはなっていないそうだ。 これは子供たちの潜在能力を無駄にしていることにほかならないと著者は述べている。

では、流暢な読み手になるためには何が必要とされるのか。 著者は幼児期からの読み聞かせが大事だと説く。 物語を読み聞かせることにより、子供たちは語彙を増やし、他人を理解する能力を養い、読解力を磨いていく。 そして自ら物語を読むようになり、「熟達した読み手」へとステップアップしていくのである。

著者は興味深い指摘をしている。 熟達した読み手になれば、文章の表面には現われず、奥深くに隠された皮肉や意見、暗喩、視点──いわゆる「行間」というものを理解するようになるというのだ。 それに関連して想起されるのが、「行間を書かない」「考えさせない」読み物が増えている最近の日本の状況だ。 その代表例としてケータイ小説が挙げられるが、コミックについてもそれが言えるだろう。

読み物だけではない、最近のテレビ番組もそうだ。 バラエティ番組を例に取れば、出演者のセリフで笑うべきところがテロップで大写しになり、「織田信長」という名前が出れば、画面の端に織田信長のイメージが映し出されるという具合である。

言ってみれば、「行間が読みない人たちが増えている」ということだと思うのだが、映画でもそれは同様のようだ。映画評論家である町山智浩氏は映画の暗示が理解できない映画評論家がいることを指摘している。

この人が勘違いを起こすのは、セリフでなく、映像や表情や行動だけで意味が示されるシーン、または画面にすら直接は映さないで暗示するシーンだ。つまりセリフではっきり説明されないとわからないのだ。

[映画を観る能力がまったくない映画評論家 - ベイエリア在住町山智浩アメリカ日記より引用]

もし、このまま「行間のない」作品が増えていけば、表現の危機といえる状況になるのではないかと少し心配になる。

さて、インターネットが日常化するにともなって、我々は日々大量の情報を入手している。 しかし、それが本当に理解しているということになるのか。 著者はそう危惧する。

著者は、書き言葉というものに懸念を表したソクラテスの言葉を引く。 ソクラテスが書き言葉に反対した理由のひとつが、それが表面的な理解しかもたらさない──つまり、「読んだだけで分かったような気になってしまう」ということだ。

小難しい本をとりあえず読んだものの「分かったような、分からないような」などと言っている私のような人間にとってはなんとも耳の痛い話であるが、著者は「本を読む」という行為を行なわずとも、単にググってリンクを辿るだけで知識が溢れ出てくるインターネットが、ソクラテスが懸念を表明した書き言葉よりもさらに考える力を失わせているのではないかと懸念している。

正直なところ、私自身も読書と同じくらいの時間をインターネットで過ごしている人間であるし、著者が反対意見を述べているレイ・カーツワイルの『ポスト・ヒューマン誕生―コンピュータが人類の知性を超えるとき』を読んで感銘を受けたクチなので、その主張には多少の反発を覚えないでもない。 しかし、その反面、Wikipediaの内容をそのままレポートにコピペして「調べた」と称する学生たちがいか多いかということを考えれば、その懸念にもある程度同意せざるをえない。

ラストのパートでは、著者は「ディスクレシア(読字障害)」を取り上げている。 ディスクレシアとは知能と関係なく、生まれながらに「読む」ことに苦労してしまう障害である。 トーマス・エジソンやレオナルド・ダヴィンチ、アルベルト・アインシュタイン、グラハム・べルといった偉人たちがディスクレシアだったということには驚かされるが、それ以上に驚かされるのが著者自身の家系がディスクレシアの家系であり、彼女も子供時代にディスクレシアの傾向があったということである。

著者の研究によれば、ディスクレシアの人々はパターン認識が重要とされる分野について非凡な才能を発揮することが多いそうだ。 芸術や建築といった分野、医療であれば放射線科、エンジニアリングやコンピュータ技術であればパターン認識や設計、さらに大規模なデータからパターンを読み取る必要のある金融取引などである。 たとえば、著者の曾々祖父はインディアナ州でタバコの栽培で成功した人だそうだが、数字が苦手で10の代わりに01と書いてしまうようなことがあったそうである。 そのため、勘定書には数字の代わりに線を引いて代用した。 また、著者の息子もディスクレシアであるが、美術の分野に才能を発揮しているそうである。 著者はディスクレシアの人々の隠れた才能を潰さないためにも、ディスクレシアであることの早期発見とそのための教育を確立する必要があることを強調している。

本書はそのすべてページを使って「読む」とはなにかを問い続けている一冊だ。 あまりにも当たり前すぎて普段意識することのない「読む」という行為だが、それは神秘に満ちている。 「読む」ことを再認識させるとともに、「読む」とはなにかを考えさせる好著である。

最後にちょっと個人的なことを。 本書を読了後、自分がなぜ本好きになったかを思い返してみた。 強く印象に残っているのは、私が幼稚園児だった頃、母が寝物語で『もりのへなそうる』を読んでくれたことだ。 たぶん、それが私にとって物語の面白さに目覚めるきっかけだったのだろう。 読書という素晴しいものに出会う機会を与えてくれた母に感謝して筆をおくことにしよう。


プルーストとイカ―読書は脳をどのように変えるのか?

Amazonで購入
書評/サイエンス


プルーストとイカ―読書は脳をどのように変えるのか? プルーストとイカ―読書は脳をどのように変えるのか?
メアリアン・ウルフ
インターシフト
¥ 2,520


2008-11-05(Wed) [長年日記] この日を編集

_ 大祖国戦争を戦った女性兵士たちの証言──戦争は女の顔をしていない(スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ) 戦争は女の顔をしていない(スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ)

巡回先でそろって大絶賛されていたので読んでみたのが本書。

これはたしかにスゴイ本。 今年読んだ軍事関連の本の中では断トツのベスト1といっていいのではないかと思う。

第二次世界大戦を守備範囲とする軍事マニアの常識のひとつに、ソ連・ロシアでの第二次世界大戦(主に独ソ戦)の呼称が「大祖国戦争」だったというものがある。

もうひとつの軍事マニア的な常識が、ソ連側の軍人として百万人を越える女性たちがドイツ軍と戦ったということだ。 それは他国のように、彼女たちが看護師や軍医としてのみ戦ったということではなく、文字通り、歩兵や狙撃兵、戦車兵、衛生兵、通信兵、パイロット、パルチザンといった最前線に立つ一兵士として戦ったという意味である。

彼女たちは男性に劣らない働きをしたにも関わらず、戦後、周囲の心ない差別による沈黙を強いられ、凄惨な人生を送らざるをえなかった。 ペレストロイカにあわせて進められたグラスノスチ(情報公開)を契機として、やっと彼女たちは声を上げられるようになったのだ。それは第二次世界大戦終結から実に30年以上も経ってからのことである。

本書はそんな彼女たちの声を丹念に集めたインタビュー集だ。

ひとつひとつのインタビューは決して長いものではない。 例外的に10ページ前後のものもあるが、そのほとんどが1ページに収まるものだ。 中には数行というものもある。 しかし、その証言がひとつひとつが強烈に胸に迫ってくるのである。

印象に残ったものを全部引用すれば膨大な量になってしまうので、ごく一部を紹介しておきたい。

たとえば、従軍して初潮をむかえた元・斥候兵の女性の次のような言葉だ。

私はメダルを授けられて、その日のうちに任務に就きました。その日に初めて私の……女性のあれが始まったのです。自分の血を見て大声をあげました。

「怪我をしちゃった!」(p.77)

軍に入って以来、男物の下着しか支給されてこなかった元・狙撃手は語る。

ポーランドの最初の村で新しい衣服が支給された……そして、初めて女物のパンツとブラジャーがもらえたんだ。戦中を通して初めてだよ。ははは。分かるよね……あたしたち初めてあたりまえの女物の下着をもらったんだよ。

どうして笑わないのさ? 泣いているのかい? どうして?(p.106)

高射砲を指揮していた女性は、戦後に受けた苦しみを打ち明ける。

男たちは戦争に勝ち、英雄になり、理想の花婿になった。でも、女たちに向けられる眼は全く違っていた。私たちの勝利は取り上げられてしまったの。〈普通の女性の幸せ〉とかいうものにこっそりすり替えられてしまった。男たちは勝利を分かち合ってくれなかった。悔しかった。理解できなかった。(p.149)

殺された一家のそばで吠える犬を見た証言者の話は、犬好きであるならば、瞑目せざるをえないだろう。

犬はそのそばに座って泣いている。本当に泣いているの。人間が泣いているみたいに。(p.169)

元・工兵小隊長は戦地であっても女性らしさを忘れなかった。

宿舎のおばさんが卵を二つくれて「途中でお食べ。そんなやせっぽちじゃ、折れちまいそうだよ」と言ったんです。私はおばさんに気づかれないようにそおっと二つの卵を割ってブーツを磨くのに使ってしまいました。もちろんお腹も空いていたけれど、きれいにしておきたいという女心が勝ったんです。(p.230)

本書の最後に掲載された、元・衛生指導員の次の言葉には思わず目頭が熱くなった。

兵器のおもちゃは嫌だよ、飛行機とか戦車とか、誰がこんなものを思いついたんだろ? 胸を引き裂かれる思いがする。兵器のおもちゃなんか買ったことないし、あげたこともないよ。自分の子供にも他人の子供にも。ある時、軍用機やプラスチックの自動小銃のおもちゃを誰かが家に持って来た。すぐにゴミ捨て場に捨てたよ。すぐに! だって、人間の命って、天の恵みなんだよ。偉大な恵みさ。人間がどうにかできるようなものじゃないんだから……(p.377)

完全に私見だが、やはり男と女とでは同じ最前線で戦いながらも、戦争という異常な事象への見方が違ってくるのだろう。

男性は、それがたとえ負け戦であったとしても英雄譚と仕立て上げてしまう傾向がある。

しかし、女性は違う。 彼女たちは戦争を日常の延長として捉え、自分たちの現実の範囲内で処理することができるのではないか。

彼女たちがすべての真実を述べている訳ではないということには留意するべきだろう。 ドイツ国境を越えたロシアの若者たちがドイツ人女性に対してなにをしたのか。 同じロシア人として、同世代の若者たちの所業を暴露する気にならないことは心情的に理解できる。

男性が語るものとはまた違う戦争の相貌を浮かび上がらせる傑作である。 全力でオススメしたい。

戦争は女の顔をしていない 戦争は女の顔をしていない
スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ
群像社
¥ 2,100

関連

本書の書評を書いている巡回先の方々。


2008-11-06(Thu) [長年日記] この日を編集

_ 茨の道を進む起業家たちのアイデアのタネ──成功する起業家の「非・常識」勉強法 (DO BOOKS)(丸山 学) 成功する起業家の「非・常識」勉強法 (DO BOOKS)(丸山 学)

起業についてよく言われる言葉が

資金が尽きるのと、軌道の乗るのと、どちらが速いかの競争である

というものだそうである。

起業家にはゆっくりと考えている時間がない。 常に動き続けなければ事業が失敗してしまうのだ。 だから、彼らは走りながら勉強をし、読書をし、人脈づくりをする。

年間100件以上の起業に携わってきた行政書士、起業コンサルタントである著者が自身のノウハウとともに、これまでに見てきた成功した起業家たちに共通する手法をまとめたものが本書だ。

本書に含まれている分野は「勉強法」「「読書法」「人脈づくり」「アイデア発想法」「目標達成術」「モチベーションアップ術」の6つ。

タイトルには『「非・常識」勉強法』と銘打ってあるが、実際のところ、それほど突飛ななことが語られている訳ではない。 それどころか、かなり真っ当なノウハウが紹介されているので、目新しさこそないものの、説得力がある内容となっている(いまさらblogでアフィリエイト収入かぁというところもなきにしもあらずだが)。

個人的には

  • よい人脈は異種交流会で探すのではなく、向こうから来てもらうようにする
  • 組み合わせでしか、新しいアイデアは生まれない
  • 独創的な組み合わせは、結論を先に考えることで生まれやすくなる
  • 成功する起業家は「結論」から先に考える
  • 仕事に余裕を持たせると、常に気分が乗った仕事だけをできるためパフォーマンスが高まる

あたりは、「なるほどね」と頷きつつ読んだ。

本書の中でも特に面白いと感じたのが、著者の読書術だ。 著者は、ある程度ビジネスの知識を身につけた起業家へビジネス書以外の本を読むことを勧めている。 なぜなら、そこにはビジネスを飛躍的な発展させるアイデアが溢れているからである。

著者は自分がある着想を得た読書の流れを紹介している。

まず、著者は有名なビジネス書である『ザ・プロフィット』を読み、ビジネスモデルの要諦は権力ではないかと思いつく。 「権力」をキーワードに書店の本棚を探したところ、『権力の読み方』という本を見付ける。 それを読んでみたところ、権力から利益を生み出す手法について理解ができた。 さらに思索を進め、江戸時代の権力構造が参考にできるのではないかと思い、『貧農史観を見直す』を探して読み、利益を最大化しない価格設定こそ日本にマッチした価格大系ではないかと考えつく──こんな具合である。

私自身は乱読が好きなので、強い目的意識をもった読書というものには若干の反発を覚えなくもないのだが、こういう読書方法もあるのだと感心した次第。 少なくとも、巷に溢れる、ビジネス書ばかりを読んで「読書術」と称しているものより格段に面白いと感じられるのではないかと思う。

ちなみに

問題意識の低いビジネスパーソンは、逆に書籍や雑誌を読んでも「う~ん、いいこと書いてあるなあ……」で終わってしまい、何となく有益な書籍だった、あるいは全体がよかったということで終わってしまうのです。(p.82)

という著者の言葉は少々耳に痛かった。:-)

経営には自分の「弱さ」を確認させられるような出来事ばかりが起こると著者は書き、こう続ける。

逃げることなく、その弱さを克服するために、起業家や経営者は自己啓発を続けていかなければならないのです。

そんな茨の道を進む起業家たちに、アイデアのタネを与えてくれる書ではないかと思う。


成功する起業家の「非・常識」勉強法

Amazonで購入
書評/ビジネス


成功する起業家の「非・常識」勉強法 (DO BOOKS) 成功する起業家の「非・常識」勉強法 (DO BOOKS)
丸山 学
同文館出版
¥ 1,575

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_ tsugawa [同文舘出版の津川と申します。この度は弊社の本を読んでいただき、ありがとうございます。ご意見と共感された部分、励みにな..]


2008-11-07(Fri) [長年日記] この日を編集

_ Amazon Cross Book CheckのSITEINFOを修正・追記したら、ほぼ完璧に近い書籍横断検索が可能になった

Amazonから色々な古書店の在庫を調べるid:addaさん作のグリモン、Amazon Cross Book Checkを愛用させていただいているのだが、livedoor BOOKS検索がlivedoor BOOKSのリニューアルにともなって動かなくなっていたのでSITEINFOを修正した。

ついでに、id:turing_patternさんがAmazon Cross Book Checkの素晴しいSITEINFOを公開されているのを見つけたので、そこら古本市場とeBOOKOFFのSITEINFOをいただいて追記してみた。 古本市場については、在庫がないものも拾ってきてしまうので、Regexpをちょっといじって在庫があるものだけに限定させた。

さらに、id:turing_patternさんのAmazon Cross Book Check で自分の好きな図書館を検索する方法を参考に、自宅市内の図書館も追加。

以下がpatch。

=== amazoncrossbookcheck.user.js
==================================================================
--- amazoncrossbookcheck.user.js.orig
+++ amazoncrossbookcheck.user.js
@@ -14,10 +14,28 @@
 	},
 	{
 		label: 'livedoor BOOKS',
-		url: 'http://books.livedoor.com/used/item',
-		afterISBN: '.html',
-		regxp: /\u4E2D\u53E4\u4FA1\u683C\uFF1A<span class="price">([\d,]+)/,
+		url: 'http://books.livedoor.com/search/?word=',
+		afterISBN: '&v=2',
+		regxp: /\u4E2D\u53E4\u4FA1\u683C\uFF1A<span>([\d,]+)/,
 	},
+	{
+		label: '古本市場',
+		url: 'http://www.search.ubook.co.jp/search/search.php?category1=all&shousai_r=1&isbn=',
+		regxp: /span class="biggerlink">([\d,]+)[\s\S]*?<input type="checkbox"/,
+	},
+	{
+		label: 'eBOOKOFF',
+		url: 'http://www.ebookoff.co.jp/cmdtysearch?Ctgry=1002&hdnSearchFlg=1&chkOld=1&txtISBNCode=',
+		regxp: /<span class="uam texttype01">([\d,]+)/,
+		isbn13: true,
+	},
+	{
+		label: '日高市立図書館',
+		url: 'http://www.lib.hidaka.saitama.jp/kensaku/toslist.asp?tilandor=1&autandor=1&autpos=1&isbnkey1=',
+		afterISBN: '+&dspcnt=10&sort=1&order=1&x=52&y=16&pg=0&style=10',
+		regxp: /tosmok\.asp/,
+		isbn13: true,
+	},
 ]

 var CONF = [

実際に使ってみたら、AmazonからBOOKOFF Online、livedoor BOOKS、古本市場、eBOOKOFF、そして図書館の横断検索ができるようになって、最高に便利すぎる。

個人的にはほぼ完璧に近い書籍横断検索が可能になった感じだ。

id:adda++, id:turing_pattern++

本日のツッコミ(全2件) [ツッコミを入れる]

_ adda [こんにちは。 turing_patternさんのエントリ、SITEINFOが追加されているの気付きませんでした! ..]

_ poppen [コメントありがとうございます。 ライブドアを今日確認しましたら、おっしゃるとおり、現行のバージョンのSITEINF..]


2008-11-08(Sat) [長年日記] この日を編集

_ 人間が不合理な生き物であることをユーモア溢れる語り口で浮き彫りにする一冊──予想どおりに不合理―行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」(ダン アリエリー/Dan Ariely) 予想どおりに不合理―行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」(ダン アリエリー/Dan Ariely)

これはスゴイ本だ。 我々の行動がいかに不合理であるかとともに、それが予想できるということを数々の実験から明らかにしてしまった書なのである。

本書の著者は、MITで教鞭をとる行動経済学者である。 行動経済学とはなにか? シェークスピアは『ハムレット』にこう書いた。 「人間とはなんという傑作だろうか」──これが伝統的な経済学の基本的な考え方だ。 傑物である人間はいつだって合理的に振る舞うはずという前提があるのだ。 だが、実際のところ、我々は合理的とても言えない。 そうであれば、ダイエット中の間食などしないはずだし、衝動買いもするはずがないし、つまらないことにお金を費さず貯蓄しているはずなのだ。

しかし、それら不合理な行動が行きあたりばったりで分別がないものかといえば、そうとも言えない。 それらは我々のほぼ全員に共通する系統的なものであり、何度も繰り返すものなのである。 それゆえ、不合理な行動を予測することは可能である──これが行動経済学の考え方だ。 行動経済学は、本書のタイトルが示す通り、このような「予想どおりに不合理」な人間の振舞いを研究する心理学と経済学の両面を持った新しい学問なのである。

著者は様々なテーマと取り上げ、我々の不合理な面を浮き彫りにしていく。 たとえば、「我々にとって、どれだけ価格の基準が曖昧なものであるか」「我々がどれだけ無料というものに弱いか」「我々のやる気は、どれだけ金銭面での報酬以上に社会規範に影響されるか」といった具合である。

本書の優れている点は、すべてのテーマについて、著者自らが行なった実験による裏付けがなされているということだ。

著者は実験のため、チョコレートやコーヒー、ビールを学生たちに無料で振る舞い、大学バスケットボールのチケットのダフ屋をやり、不正ができる環境をワザと作り学生にテストを受けさせる(もちろん、経済的利益はなく、被験者の同意も得た上で)。 中には、若く健康な男子学生に「女性の靴に性欲をかきたてられますか?」「60歳の女性とセックスをする自分を想像できますか?」などという質問を普通の状態と自慰中にし、その回答に差異があるかを調べるなんていうキワモノもある。

著者はそれらの実験の過程と結果を軽妙な語り口で描いていくが、その裏には「科学は実験によって実証されなければならない」という強い信念が見える。 そこに著者の科学者としての良心を見ることができるだろう。

著者が証明していく人間が持つ数々の不合理な面については、自分がどんなに合理的だ、と考える人でも該当するものがあるに違いない。 それらについては実際に本書を読んで確かめて欲しいが、個人的にズバリ当てられたものを紹介しておこう。

人間がある品物を買おうと決意した時、その価格がまるで錨(アンカー)のように類似商品の価格の判断基準となってしまう。それから常にその価格が高い安いの基準となってしまうというのである。 たとえば、私の場合でいえば、2ヶ月前に一眼レフカメラを買った。 その時の価格は下取りとキャッシュバックを入れて、約6万円。 これが私にとってのアンカーなのだ。 それ以来、一眼レフカメラを見ると、その約6万円を基準に「高いな」「安いな」と考えてしまっている。 まさに著者の言う通りだ。

これまで豪勢な生活を送っていた人間が経済的に破綻してしまった後もそのような生活を続けてしまうという、よく聞く話(最近で言えば、先日逮捕された小室哲哉がよい例だろう)もアンカーで説明できる。 つまり、豪勢な生活レベルにアンカーがアンカリング(係留)されてしまっているため、生活レベルを落とそうと思っても価値基準が引き戻されてしまうのである。

こういう事態を避けるため、著者はまず自分の習慣や価値基準を見つめ直し、長いあいだに渡って同じ決断を続けそうな事柄(服装や食事)などを決める際にも熟考する必要があると述べている。

しかし、そう書いている著者にも、こんな不合理なエピソードがある。 数年前に勤務する大学をMITにするか、スタンフォードにするかで迷った著者は、両校の職場環境を調べるのに時間を費した。 そのうち、その調査にあまりにも熱中しすぎて、ついに肝心の研究がおろそかになってしまったそうだ。 人間とはどんなに分かっていても(たとえ、行動経済学のエキスパートでも!)不合理に振る舞ってしまう生き物らしい。

本書は二種類の人にオススメしたい。

まずは自分が合理的だと考えている人である。 読めば、自分の持つ不合理な一面を知ることができるはずである。 そして、それを避けるための知識を身につけることができるかもしれない(著者のように知識を身につけても避けられない可能性はあるが)。

次にマーケティングに興味がある人である。 言葉は悪いが、企業が人々を騙すために用いているテクニックを知ることができるはずだ。 ビジネスへ応用すれば、立派な戦略のひとつになるだろう。 もちろん、企業に騙されたくない人々にも有用だ。

最後に本書で感銘を受けた事柄をひとつ。 著者によれば、給料の多さと人が感じる幸福感の間の関連性は弱いそうである(繰り返し実験によって実証されているそうだ)。 本書を読んで、本当の幸せとはなにかを考えてみるのも良いのではないだろうか。


本書は本が好き!経由で早川書房様よりプルーフを献本いただきました。

刊行前の本が読めるという本好き冥利に尽きる楽しみを与えていただいたとともに、このような傑作を読む機会をいただきましたことに感謝いたします。

2008/11/20追記

書影を掲載。

予想どおりに不合理―行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」 予想どおりに不合理―行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」
ダン アリエリー/Dan Ariely
早川書房
¥ 1,890

本日のツッコミ(全2件) [ツッコミを入れる]

_ YO-SHI [こんにちは、YO-SHIといいます。 「本読みな暮らし」という読書ブログをやっています。 以前にも「36倍売れた..]

_ poppen [YO-SHI様 コメントありがとうございます。 私も本書にはずいぶんと思い当たる節が多かったです。読書感想に..]


2008-11-11(Tue) [長年日記] この日を編集

_ スウェーデン発国民的ベストセラー・ミステリー第一弾──『ミレニアム1』(スティーグ・ラーソン)

スウェーデン発世界的ベストセラー三部作の開幕篇が本書。

なんと人口900万人のスウェーデンで三部作合計で270万部を売り上げ、全世界では合わせて700万部を売り上げたというのだから、びっくりしてしまう。 特にスウェーデンでは単純計算で4人に1人、三部作を一人が買ったと計算しても10人に一人は買ったということになるので、国民的ベストセラーといって間違いないだろう。

さらに、作者スティーグ・ラーソンは三部作を書き上げた後、刊行を待たずして50歳の若さでこの世を去ったということで、なんとも運命的なものを感じてしまう。

今回、『予想どおりに不合理』につづいて、早川書房さんから本が好き!経由でプループをいただいて読んだのだが、たしかにベストセラーになるだけのことはある面白さだ。 675ページという長尺ではあるが、ぐいぐい引っ張られて休日一日で読み切ってしまった(ちなみに刊行時には上下巻になるとのこと)。 三部作ではあるが、本作のストーリーは一冊で完結しているので、「つづきを待つのはいやだ!」という人にもオススメできる。

主人公は、スウェーデンの月刊誌『ミレニアム』の発行責任者を務めるミカエル・ブルムクヴィスト。 次々と経済界の不正を暴いてきた彼だったが、罠にはまり、実業家ヴェンネルストレムの違法行為を暴露した記事を巡る名誉毀損裁判で有罪の判決を受けてしまう 。多額な賠償金の支払いと禁固刑を命じられたミカエルだったが、なによりも苦しいのは今まで築き上げてきた『ミレニアム』の信用が地に堕ちてしまったことだった。 『ミレニアム』の立て直しに悩むミカエルの元に、一本の電話がかかってくる。 それは20年前に表舞台から姿を消した、財閥ヴァンゲル・グループの元会長ヘンリック・ヴァンゲルの顧問弁護士からのものだった。 ヘンリックがミカエルと会うことを希望しているというのだ。 ヘンリックに会うことを渋るミカエルだが、好奇心に負け、ヘンリックが住むヘーデビー島に赴く。

……という導入から経済犯罪小説的な展開になるのかと思いきや、ここでストーリーは一気にミステリーへと舵を切る。 ヘンリックはミカエルに言う。 40年前に突如、島から姿を消した姪ハリエットになにがあったを突き止めて欲しい──。

当時、島と本土を結ぶ橋でタンクローリーが炎上する事故があり、島と本土を行き来するができなかった。 そんな一種の密室状態の島からハリエットは失踪してしまったのだ。 ヘンリックはヴァンゲル一族の誰かが彼女を殺した信じていた。 巨額な報酬にも心が動かず、依頼を断わろうとするミカエルだが、ヘンリックがヴェンネルストレムを有罪とする資料を渡すことを約束したため依頼を受けることを承諾する。

一方、フリーランスの女性調査員リスベット・サランデルはヴァンゲル・グループよりミカエルの身辺調査を依頼され、名誉毀損事件について個人的な興味を持つ。 そんな彼女にもたらされたのは、ミカエルの助手としての仕事だった──。

臨時のコンビを組んだミカエルとリスベットは40年前の事件に挑んでいく。 事件の新事実を明らかにつれ、失踪事件は新たな様相を見せはじめる。 そして、真相に近づく彼らにも魔手が……。

というのが、だいたいのあらすじだ。

本書のテーマは、各章の扉に付されたスウェーデンの女性が遭った性暴力事件の統計やハリエット失踪事件から浮かび上がる真相、そして、登場人物の一人を襲う悲劇からも分かる通り、女性に対する虐待である。 遠く離れた日本からは「福祉の国」というイメージが第一にくるスウェーデンだが、その影には女性たちの叫びが隠れていることを本書は浮き彫りにしていく。

女性や子供が犠牲になる作品を読むと、どうしても陰鬱になってしまうのだが、しかし、本書は決して暗い一辺倒ではない。 男性の女性への暴力を描く一方で、同じ男性であるミカエルを魅力溢れる好人物としても描いているからだ。 悪は徹底的に糾弾し、女性には優しいというミカエルの男前ぶりがなんともいい。 モテまくりのミカエルだが、それが男から見ても嫌味になっていないあたりに、亡くなった作者もいい男だったんだろうなぁと想像させるものがあった。

登場人物に多少まとまりのなさが見られるものの、非常に面白く読めた本書なので、やはりつづきが気になる。 本作で結成されたミカエルとリスベットのコンビは、次にどんな事件に立ち向かうのか? ミカエルとリスベット、それにミカエルの長年のパートナー、エリカを交えた三角関係はどうなるのか? 第2部は来年4月、第3部は来年7月に刊行予定ということなので、首を長くして待ちたいと思う。

ちなみに、ミカエルやリスベットはiBookやPowerBook使いなので、Macユーザであれば、さらに好感度アップしながら読めるかもしれないです。:-)*1

2008/12/9追記

書影を掲載。


ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 上 ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 上
スティーグ・ラーソン
早川書房
¥ 1,700

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 下 ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 下
スティーグ・ラーソン
早川書房
¥ 1,700

*1 MacBookユーザである私がそうだった。


2008-11-13(Thu) [長年日記] この日を編集

_ ヤングアダルトとナメてかかると度肝を抜かれるハードな展開の〈サリー・ロックハートの冒険〉シリーズ第二弾──『仮面の大富豪』(フィリップ・プルマン)

ヴィクトリア朝時代の英国を舞台に、男勝りの勇気と行動力に溢れた女性サリー・ロックハートが活躍するシリーズ第二弾が本書。

デカい活字と大きな行間、やたらと振りまくってあるルビに「ヤングアダルト小説だなー」とナメてかかっていたら、ハードな展開に度肝を抜かれた一冊だ。

時は、前作『マハラジャのルビー』から6年を経た1878年。 前作では少女だったサリーも22歳の美しい大人の女性に成長していた。 彼女はケンブリッジ大学を卒業した後、ロンドン・シティに事務所を構え、財政コンサルタントとして生計を立てている。 この時代には珍しい職業婦人となっていたのである。 前作で良き仲間となったガーランド写真店を経営するかたわら探偵業もはじめたフレデリックからは何度も求婚されているものの、精神的・経済的な自立を保ちたいと考えているサリーは、その度に断り、お互いの関係がギクシャクしはじめていた。

そんなある日、顧客の老婦人がサリーを尋ねてくる。 サリーが投資を勧めた海運会社が海難事故が多発した結果、倒産し、婦人は貯えをすべて失ってしまったのだ。 責任を痛感するサリーだが、婦人の話を聞くうちに計画倒産の疑いを持ちはじめる。 一方、ミュージックホールで裏方として働いているジムは悪漢に追われる奇術師を助けたことからフレデリックとともに、奇術師が巻き込まれた事件を追うこととなる。 関係ないと思われていた二つの事件だが、調査が進むにつれひとつに絡んでいき、その背後に謎のスウェーデン人大富豪アクセル・ベルマンがちらつきはじめる……。

前巻では貧民街を牛耳る老婆が悪役として登場したが、今回の敵は巨大な財力を誇り、イギリス政府にまで手が届く権力を持つ、富豪ベルマンである。 老婆とは比較にならないほど巨大な敵であることはもちろんだが、サリー自身も新たな弱点を抱えてしまっている。 それは職業婦人としての地位だ。 なにしろ女性たちの社会的権利もほとんど認められていなかった時代ある。 もう大人の女性であるサリーにとっては、些細な風評であってさえ財政コンサルタントとしてのビジネスが立ち行かなくなってしまう危険性があるものなのだ。 そんなこともあって、前巻と比べてサリーの活躍が気持ち少な目な印象を受ける本作だが、フレデリックとジムの二人の活躍はそれを補って余りあるものなのでご安心を。

ヤングアダルト小説という体裁でありながら、ヴィクトリア朝英国の表も裏もをきっちり描いているのが本シリーズの魅力だ。 本書では貴族や富豪をはじめとする上流階級とそれに対する労働者階級の暮らしぶりを描き出している。 そんな中でも個人的に面白いと感じたものが二つ。

ひとつ目が、当時流行っていた降霊会がひとつの重要なキーとして登場することだ。 フレデリックとジムが暴露するように、全部とまでは言わないまでも、そのほとんどがインチキだったようである。 同時代を生きた、シャーロック・ホームズの生みの親、アーサー・コナン・ドイルが降霊会にハマっていたのは有名な話だが、実はそれ以外にも多数の有名人が関わっていた。 言ってみれば、最近のスペリチュアル・ブームみたいなものだったのだろう。 ここらへんについては『幽霊を捕まえようとした科学者たち』が詳しいので、興味がある方は一読をオススメする次第。

もうひとつが『吸血鬼ドラキュラ』の作者ブラム・ストーカーの名前がちらっと登場すること。 彼もヴィクトリア朝英国を生きた人であった。 作中で言及されるようにストーカーは実際に劇場の支配人をしていた。

風俗や登場人物以外でも、ベルマンの唱える理想の背景にある帝国主義的な考え方は、当時の歴史と照らし合わせると興味深い。

本書で一番目を引くのは、なんといっても19章からのハードな展開である。 読書の興を削ぐので詳しくは書けないが、「ヤングアダルトなのに、こう来たか!」と思わず唸ってしまった。 これをどう評価するかは読み手によってまちまちだと思うが、個人的には作者がサリーが少女から大人の女性に成長したように、読者である少年少女にも成長を促したのではないかと感じた。

続篇であるシリーズ第3弾は、3年後の1881年が舞台になるとのこと。 25歳となったサリーがどのような活躍を見せるか楽しみに待ちたい。

最後になるが、『マハラジャのルビー』および本作『仮面の大富豪』の英国でドラマ化され、日本でもミステリーチャンネルで放送されるとのこと(http://www.mystery.co.jp/program/sallylockhart.html)。 自宅ではミステリーチャンネルが見られないので、残念ながら視聴できない。 NHKや民放じゃ放送は……しないだろうなぁ。

関連


仮面の大富豪

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書評/

仮面の大富豪 上 (1) (sogen bookland サリー・ロックハートの冒険 2) 仮面の大富豪 上 (1) (sogen bookland サリー・ロックハートの冒険 2)
フィリップ・プルマン
東京創元社
¥ 1,890

仮面の大富豪 下 (3) (sogen bookland サリー・ロックハートの冒険 2) 仮面の大富豪 下 (3) (sogen bookland サリー・ロックハートの冒険 2)
フィリップ・プルマン
東京創元社
¥ 1,890


2008-11-14(Fri) [長年日記] この日を編集

_ 電車の事故に遭遇してぐったり

東上線に乗っていたら、乗っていた電車が踏切で立ち往生した車と衝突する事故を起こしてしまった。

事故当時、2両目に乗っていたのだが、電車が警笛を鳴らしていたかと思うと、ガーンという衝撃が来て、車内の照明が一斉に消えたという感じ。 人間不思議なもので、ああいうことがあると、見知らぬ乗客同士、顔を見合わせるものなんだね。

電車が自走できなくなったので、40分ほど車内に閉じ込められた後、救急隊に降ろしてもらって、近くの駅まで歩いた。

問題はそれからで、電車は上下線とも当然止まっている、代替バスはない、タクシーもない、連絡線がある駅までは歩くのはほぼムリ、と動きようがなく、復旧するまでの間をずっと立って待っていた(ファストフード店も喫茶店ももう一杯)。 まぁ、読書は進んだけど(ぉ。

幸いにも事故発生から3時間でなんとか復旧して、乗り継ぎをしながら午前中に行く予定だった場所に14時に到着して、夕方まで作業。 結局、昼飯を食べる時間もなかった。

へろへろになり帰宅して、晩飯を食べたら、すぐにバタンキュー。

まぁ、なんにせよ、ケガ人がなくてよかった。 避難する時に、ぺしゃんこになった車も見たけど、運転していた人は亡くなったと勘違いしていた。

ちなみに、やじ馬根性が出て事故車の写真を撮ろうかと思ったのだが、もじみマークが見えて、自分の親だったらと考えると撮る気が失せてしまった(まだ両親はその歳には達していないが)。

関連

その時のニュースや新聞記事。


2008-11-15(Sat) [長年日記] この日を編集

_ 「革命ごっこ」に明け暮れた学生過激派活動家の7年間──ゲバルト時代 SINCE1966-1973 あるヘタレ過激派活動家の青春(中野正夫) ゲバルト時代 SINCE1966-1973 あるヘタレ過激派活動家の青春(中野正夫)

19歳だった1967年に、過激派の活動家として学生運動に身を投じた著者が、逮捕・拘置所での拘留を契機に運動を抜けるまでの7年間を回想しているのが本書。

ぶっちゃけて書くと、学生運動が「革命ごっこ」にしか過ぎなかったということを再確認できる本だ。

脚注をはじめとして、所々で開陳される著者の政治的な主張にはほとんど同意はできないが、「革命ごっこ」「ゲバ棒ごっこ」と自嘲気味に語るように、学生運動の実態を正当化や美化するのではなく、一歩引いた皮肉混じりの視点で描き出していく筆致にはそれなりに好感が持てる。 当時の学生運動のリーダーたちや元・活動家の「文化人」をバッサリと斬っている点も痛快だ。

著者は学生運動にどっぷり漬かりつつも組織に染まることはなかった自らを「ヘタレ」と称しているが、組織の維持のためにリンチ殺人を行なった連合赤軍と比較すれば、たとえ「ごっこ遊び」と貶されようが、どちらが良かったかはおのずと明らかだろう。

率直に言って、本書で語られる活動家たちについて「いったいなにがやりたかったのかなー」と思ってしまうのだが、翻って現在の田母神論文を擁護する動きを見ていると、主義主張は違えど、本質的には両者に差はないのではないかと思えてくる。 結局のところ、著者が喝破するように、主義主張なんてものは後付けの理由で、人が動く最大の要因は感情にあるということなのだろう。

若者らしい、いい加減さとともに、奔放な下半身事情(なにしろフリーセックスもありの時代だ)も赤裸々に描かれており、第一次ベビーブーマ世代の風変りな青春譚とも読める一冊だ。

なお、活動家出身の「文化人」たちを容赦なく扱き下ろしている著者であるが、例外的に笠井潔だけは評価している。 笠井の評論、 『テロルの現象学』 『国家民営化論』 の2作については「止めを刺す」とまで書いているので、機会があれば読んでみようと思う。 しかし、両方とも絶版なんだよなー。

参考

_ アップルストア銀座に行ってきた

休日出勤で銀座に仕事で行ったので、ついでにアップルストア銀座に寄ってきた。

これまでにも寄る機会はあったのだけど、Macユーザではなかったのでスルーしていた。

で、入ってみた第一印象は「結構、狭いな」というもの。 と思っていたら、全部で5フロアまであるんですな。 1階だけだと思って、そう思ってしまった。

iPhoneやMacBook、iMacをいじったり、iPhone/iPodTouchアプリのワークショップを聞いたりして、30分ほど過ごした。 特にワークショップの会場(3F)は静かだし、席もゆったりしているので、一休みするのにも穴場だと思ったり。

デモ機が豊富にあるので、心行くまで試せるのはなかなか良いですな。

あと銀座という場所柄か、それともAppleユーザの特徴なのか、オシャレな格好をしているお客さんが多いのも印象に残った。


2008-11-16(Sun) [長年日記] この日を編集

_ 物理学の巨人の思想に触れられるエッセイ集──叛逆としての科学―本を語り、文化を読む22章(フリーマン・ダイソン) 叛逆としての科学―本を語り、文化を読む22章(フリーマン・ダイソン)

「叛逆」とは穏やかではないが、もちろん革命やテロ云々といった話ではない。 著者であり、SF者にはダイソン球殻の考案者として有名なフリーマン・ダイソンは本書における「叛逆」について次のように述べている。

各文化はそれに属する人々に、地域固有の暴政を振るう。しかし、あらゆる文化の中で自由な精神が手を組み、その暴政に叛逆する。それが科学なのだ。(p.14)

それは科学に限った話ではなく、また歴史にも言えることだ──そんな思想を持つ著者のエッセイ集が本書。 The New York Review of Booksに掲載された書評を中心にして編まれている。 物理学者として名高い著者であるが、本書は科学やSFから戦争や宗教までカバーし、優れた思想家としての顔も浮き彫りにしている。

本書に収められているエッセイは全部で22篇。 原著では29篇だったものの、大部すぎるということで割愛されたとのことだが、残念に感じるのは私だけではないだろう。

正直なところ、科学については素養がないので、著者がテーマとして取り上げた本から敷衍させる論を読んでも頭の中が「???」となってしまうところもあるのだが、原爆の父ロバート・オッペンハイマーやサイバネティックスの生みの親ノーバート・ウィーナーの人物評、アインシュタインとアンリ・ポワンカレとの比較など科学的な知識がなくても面白く読めるエッセイも多い。

特に個人的に興味深かったのが、第二次世界大戦に関するエッセイ。 「科学者であるから軍事には疎いだろう」などという偏見を持ってこのエッセイを読むと、その専門的な内容に驚かされるに違いない。 しかし、英国側のオペレーションズ・リサーチ専門家として大戦を戦ったという著者の経歴を知れば、それも納得できるだろう。

著者はイギリス人にしては珍しく(?)ドイツ贔屓なようで、ドイツ軍をかなり誉めている(もちろん、ユダヤ人虐殺について激しく非難しているが)。 中でもベタ誉めに近いとも言えるのが、フランス侵攻では先陣を切り、東部戦線ではソ戦国内での戦闘、ハンガリーでの反抗作戦等で卓越した指揮官ぶりを見せたヘルマン・バルクだ。 実は、ヘルマン・バルクについてはこのエッセイで初めて知ったのだが、戦歴の数々を紹介していて参考になった。

示唆に富んだエッセイが満載の本書であるが、純粋に書評として見た場合、著者が優れた書評家といえるかどうかという点については、少々疑問だ。 というのも、エッセイとしての出来が素晴らしいのは言うまでもないが、「俎上に上がっている本を読みたくなる」タイプの書評ではないからだ。

たとえば、先日亡くなったマイケル・クライトンの『プレイ─獲物』*1の書評。 なんとダイソン先生は書評の冒頭で、ストーリーのはじまりから結末まであらすじを書いてしまっているのだ。 言うまでもなく、完全にネタばらしである。 読者の読む気を削ぐこと甚だしいと言わざるをえない。

また、科学書についても、自説を用いて反論を述べることも多く「気持ちは分かるけれど、そんなこと書いたら身も蓋もないよ」と一言いいたくなる。

本書を読んで関連本を読みたくなるかどうかはともかく、物理学の巨人の思想に触れることができる貴重な書であることは間違いない一冊だ。

関連

本書の書評を書かれている巡回先。

*1 実は積ん読になっているのだが、まぁ、それはいい。


2008-11-17(Mon) [長年日記] この日を編集

_ 朝起きたら霧がすごかった

ハナの散歩に外に出たら、霧が立ち込めていた。

せっかくなので散歩から帰ってきてから、E-520持ち出してパチパチ写真を撮ってみた。

PB171132 PB171147

PB171259 PB171256

PB171149

最後のは、間違って写してしまった一枚。

シャッタースピードをいじれば、もうちょっときれいに撮れたんだろうけど、よく分からんよ。

残りの写真はこちら。→fog_20081117 - a set on Flickr


2008-11-18(Tue) [長年日記] この日を編集

_ 『時間封鎖』は『宇宙消失』を超えた地球封鎖SFだ!

2006年度ヒューゴー賞(長篇小説部門)に見事輝いたロバート・チャールズ・ウィルソンの長篇SFが本書。

掛け値なしに、これはスゴイ本だ。 今年読んだ翻訳SFの中でもベスト級の太鼓判を押せる大傑作である。

突如、夜空から月と星々が消えた。 正体不明の界面が地球を包み込んだのだ。

……という導入からは、SF者であれば、グレッグ・イーガンの『宇宙消失』が想起されるのではないかと思うが、『宇宙消失』と本書の相似点は「地球が閉鎖される」*1という一点だけ。 前者が単に(というのも変だが)閉鎖されているだけなのに対して、後者の地球では時間の速さが外界の1億分の1になってしまうという効果が付随するのだ。

贋物とはいえ、太陽が毎日昇ることが分かり、徐々に〈スピン〉と呼ばれるようになった境界に慣れはじめた人類は時間傾斜の効果が明らかにされるにつれ、気付きはじめる。 このままの時間の流れが継続すれば、人類よりも先に太陽が寿命を迎え、赤色巨星と化した太陽に地球が呑み込まれることを──。

ストーリーは逃亡生活を送る医師タイラー・ディプリーが過去を回顧するという形で綴られていく。 本書の核となる登場人物はこのタイラーと、兄弟同然に育ったダイアンとジェイスンのロートン姉弟の3人である。 優れた知性と行動力を持つジェイスンは父親の政治力を背景に、〈スピン〉の謎を解明すべく、NASAを吸収した宇宙機関〈ペリヘリオン〉を指導する立場へ就く。 一方、ダイアンは〈スピン〉への恐怖から終末思想を信じるキリスト教原理主義へと傾倒していく。

そこに幼い頃からダイアンへの恋心を抱いていたタイラーの想いが絡み、人間ドラマが織り成されていくのだが、SFとこの人間ドラマを両立させているところに、作者ウィルソンのスゴさがある。 あまりに人間ドラマを重視すれば、SFとしての面白さが削がれるし、SFばかりを書き込めば、完全にマニア向けの作品となってしまう。 その中間を行く絶妙な匙加減により、本書は単なるSFを超えた作品へと昇華されているのだ。

もちろん、SFとしての面白さもおさおさ怠りない。 時間の加速を逆手にとった火星テラフォーミングをはじめとする大ネタが炸裂し、文字通りの〈火星人〉まで登場してしまうのである。

〈火星人〉に ウェルズの『宇宙戦争』、バローズの『火星のプリンセス』、ブラッドベリの『火星年代記』、ハインラインの『異星の客』、ロビンスンの『レッド・マーズ』(『ブルー・マーズ』の翻訳はまだでしょうか? > 東京創元社様)を読み物として渡すシーンには、SF者であれば、ニヤリとさせられるに違いない。 さすがは

少年時代からハインライン、ブラッドベリ、スタージョンといったSF作家を読み耽り、かれらのスタイルが合成されたような作品を書きたくて執筆活動を開始した(p.360)

というウィルソンである。

広げた大風呂敷をきっちり畳むラストに感心していたところ、訳者あとがきを読んでびっくりさせられた。 なんと本書は三部作シリーズの第一弾だというのだ。 つづく、AxisVortexの二作品で本書で提示された謎が明らかにされるらしい。 Axisは既刊、Vortexは脱稿済みとの由。 東京創元社さんには、とりあえず、Axisの一刻も早い邦訳出版を心からお願いしたい。



時間封鎖

  • ロバート・チャールズ・ウィルソン/茂木 健 訳
  • 東京創元社
  • 987円
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書評/SF&ファンタジー

時間封鎖 上 (1) (創元SF文庫 ウ 9-3) 時間封鎖 上 (1) (創元SF文庫 ウ 9-3)
ロバート・チャールズ・ウィルスン
東京創元社
¥ 987
時間封鎖 下 (3) (創元SF文庫 ウ 9-4) 時間封鎖 下 (3) (創元SF文庫 ウ 9-4)
ロバート・チャールズ・ウィルスン
東京創元社
¥ 987

*1 『宇宙消失』は、正確には「太陽を中心とする半径120億キロ」


2008-11-21(Fri) [長年日記] この日を編集

_ 邪神狩人タイタス・クロウが帰ってきた!……のだが、しかし──タイタス・クロウの帰還 (創元推理文庫 F ラ 4-3 タイタス・クロウ・サーガ)(ブライアン・ラムレイ) タイタス・クロウの帰還 (創元推理文庫 F ラ 4-3 タイタス・クロウ・サーガ)(ブライアン・ラムレイ)

優れた霊能力を持つタイタス・クロウと旧支配者たちの戦いを描く全6巻シリーズ〈タイタス・クロウ・サーガ〉の第二弾が本書。

前巻『地を穿つ魔」の感想の最後に

続刊が訳されたら買うので、続けてください。おながいします。 > 創元社様

[ 地を穿つ魔 <タイタス・クロウ・サーガ> (創元推理文庫)(ブライアン・ラムレイ) - ぽっぺん日記@karashi.org(2006-01-21)より引用]

と書いてから早2年余。 遂にタイタス・クロウが帰ってきた! 続篇が刊行されたことをまずは喜びたい。

しかし、肝心の内容はというと……少々期待はずれだったというのが正直なところだ。

CCD(=クトゥルー眷属邪神群)の襲撃を受け崩壊するブロウン館から、〈ド・マルニーの掛け時計〉を使い、タイタス・クロウと盟友アンリ・ド・マリニーが何処の次元へと脱出してから10年。 長らく行方不明になり、死亡したものと思われていたアンリが半死半生の身でテムズ川に浮いている姿を発見された。 失踪している間の記憶を失っていたアンリだが、彼の身体はこの10年の歳月を感じさせない肉体年齢を保っていた。 タイタスの行方はいっこうに判然としない中、アンリは夢の中で彼の助力を求めるタイタスの声を聞きはじめる……。

新しい知識と能力を携えてタイタスが帰還し、いざ、CCDとガチンコ勝負かと思いきや、実は時空を超えるスペースタイムマシンだった〈ド・マルニーの掛け時計〉でのタイタスの旅路の様子が延々と語られるという展開に、かなり拍子抜け。

タイタスが白亜紀で翼龍や巨大ヤドカリのエサになりかけたり、惑星に墜落してロボットに助けられたり、ローマ時代で囚われの身になったり、旧神の国エリシアへ召喚されたりというストーリーはクトゥルー神話で味付けされたファンタジーとして考えれば充分、及第点だが、コズミック・ホラーな要素がほとんどなく、ホラーなクトゥルー神話作品が好きな人間としては寂しいかぎりだ。

また、初老でとっつきにくい印象の霊能探偵であったタイタスが若返り旧神に近いヒロインとのロマンスを演じるというのも、どうにも『タイタス・クロウの事件簿』や『地を穿つ魔』で語られてきたキャラクター造形にそぐわない気がしてならなかった。

独自のクトゥルー神話の要素としては、クトゥルーの娘クティーラなんていうものも登場するのだが、邪神殲滅機関〈ウィルマース・ファンデーション〉の指導者ピースリー教授の語りに、ちょこっと出てくるだけという具合で、いまいちな印象である。 その〈ウィルマース・ファンデーション〉にしても、 〈デルタ・グリーン〉をはじめとして、クトゥルー神話と戦う人間組織という設定が大好きなため、活躍を読めることを期待していたのだが、本書ではあまり触れられておらず残念。

ちなみに、ピースリー教授が語る数少ない〈ウィルマース・ファンデーション〉の活動によれば、彼らはクトゥルーの眷属を殲滅するため、太平洋に半減期の短い放射性同位体を散布し(他の海洋生物に被害を与えないように注意深く、という注釈はついているが)、インスマス沖の〈悪魔の岩礁〉を核爆弾で攻撃したそうである。 オイオイ。

寂しかったり残念だったりと、今一つの読後感だった本書であるが、いわば新生タイタス・クロウの開幕篇とでも呼ぶべきもの。 本篇に突入するはずの次巻では、本書では見られなかったタイタス vs CCDの激突と〈ウィルマース・ファンデーション〉の活躍が読めることを期待したい。

ということで、早い続刊をおながいします。 > 東京創元社様


タイタス・クロウの帰還

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書評/ミステリ・サスペンス


タイタス・クロウの帰還 (創元推理文庫 F ラ 4-3 タイタス・クロウ・サーガ) タイタス・クロウの帰還 (創元推理文庫 F ラ 4-3 タイタス・クロウ・サーガ)
ブライアン・ラムレイ
東京創元社
¥ 1,050


2008-11-23(Sun) [長年日記] この日を編集

_ テロリズムを情緒ではなく論理に従って考える時代に突入した──テロの経済学(アラン・B・クルーガー) テロの経済学(アラン・B・クルーガー)

テロリズムについて広く流布する考え方のひとつに「貧困がテロを生む」というものがある。 貧困対策を行えば、テロは撲滅できると