ぽっぺん日記@karashi.org
2008-11-05(Wed) [長年日記]
_ 大祖国戦争を戦った女性兵士たちの証言──
戦争は女の顔をしていない(スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ)
巡回先でそろって大絶賛されていたので読んでみたのが本書。
これはたしかにスゴイ本。 今年読んだ軍事関連の本の中では断トツのベスト1といっていいのではないかと思う。
第二次世界大戦を守備範囲とする軍事マニアの常識のひとつに、ソ連・ロシアでの第二次世界大戦(主に独ソ戦)の呼称が「大祖国戦争」だったというものがある。
もうひとつの軍事マニア的な常識が、ソ連側の軍人として百万人を越える女性たちがドイツ軍と戦ったということだ。 それは他国のように、彼女たちが看護師や軍医としてのみ戦ったということではなく、文字通り、歩兵や狙撃兵、戦車兵、衛生兵、通信兵、パイロット、パルチザンといった最前線に立つ一兵士として戦ったという意味である。
彼女たちは男性に劣らない働きをしたにも関わらず、戦後、周囲の心ない差別による沈黙を強いられ、凄惨な人生を送らざるをえなかった。 ペレストロイカにあわせて進められたグラスノスチ(情報公開)を契機として、やっと彼女たちは声を上げられるようになったのだ。それは第二次世界大戦終結から実に30年以上も経ってからのことである。
本書はそんな彼女たちの声を丹念に集めたインタビュー集だ。
ひとつひとつのインタビューは決して長いものではない。 例外的に10ページ前後のものもあるが、そのほとんどが1ページに収まるものだ。 中には数行というものもある。 しかし、その証言がひとつひとつが強烈に胸に迫ってくるのである。
印象に残ったものを全部引用すれば膨大な量になってしまうので、ごく一部を紹介しておきたい。
たとえば、従軍して初潮をむかえた元・斥候兵の女性の次のような言葉だ。
私はメダルを授けられて、その日のうちに任務に就きました。その日に初めて私の……女性のあれが始まったのです。自分の血を見て大声をあげました。
「怪我をしちゃった!」(p.77)
軍に入って以来、男物の下着しか支給されてこなかった元・狙撃手は語る。
ポーランドの最初の村で新しい衣服が支給された……そして、初めて女物のパンツとブラジャーがもらえたんだ。戦中を通して初めてだよ。ははは。分かるよね……あたしたち初めてあたりまえの女物の下着をもらったんだよ。
どうして笑わないのさ? 泣いているのかい? どうして?(p.106)
高射砲を指揮していた女性は、戦後に受けた苦しみを打ち明ける。
男たちは戦争に勝ち、英雄になり、理想の花婿になった。でも、女たちに向けられる眼は全く違っていた。私たちの勝利は取り上げられてしまったの。〈普通の女性の幸せ〉とかいうものにこっそりすり替えられてしまった。男たちは勝利を分かち合ってくれなかった。悔しかった。理解できなかった。(p.149)
殺された一家のそばで吠える犬を見た証言者の話は、犬好きであるならば、瞑目せざるをえないだろう。
犬はそのそばに座って泣いている。本当に泣いているの。人間が泣いているみたいに。(p.169)
元・工兵小隊長は戦地であっても女性らしさを忘れなかった。
宿舎のおばさんが卵を二つくれて「途中でお食べ。そんなやせっぽちじゃ、折れちまいそうだよ」と言ったんです。私はおばさんに気づかれないようにそおっと二つの卵を割ってブーツを磨くのに使ってしまいました。もちろんお腹も空いていたけれど、きれいにしておきたいという女心が勝ったんです。(p.230)
本書の最後に掲載された、元・衛生指導員の次の言葉には思わず目頭が熱くなった。
兵器のおもちゃは嫌だよ、飛行機とか戦車とか、誰がこんなものを思いついたんだろ? 胸を引き裂かれる思いがする。兵器のおもちゃなんか買ったことないし、あげたこともないよ。自分の子供にも他人の子供にも。ある時、軍用機やプラスチックの自動小銃のおもちゃを誰かが家に持って来た。すぐにゴミ捨て場に捨てたよ。すぐに! だって、人間の命って、天の恵みなんだよ。偉大な恵みさ。人間がどうにかできるようなものじゃないんだから……(p.377)
完全に私見だが、やはり男と女とでは同じ最前線で戦いながらも、戦争という異常な事象への見方が違ってくるのだろう。
男性は、それがたとえ負け戦であったとしても英雄譚と仕立て上げてしまう傾向がある。
しかし、女性は違う。 彼女たちは戦争を日常の延長として捉え、自分たちの現実の範囲内で処理することができるのではないか。
彼女たちがすべての真実を述べている訳ではないということには留意するべきだろう。 ドイツ国境を越えたロシアの若者たちがドイツ人女性に対してなにをしたのか。 同じロシア人として、同世代の若者たちの所業を暴露する気にならないことは心情的に理解できる。
男性が語るものとはまた違う戦争の相貌を浮かび上がらせる傑作である。 全力でオススメしたい。
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本書の書評を書いている巡回先の方々。


まで頂ければ幸いです。
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