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ぽっぺん日記@karashi.org


2007-05-03(Thu) [長年日記]

晴のち曇

_ ミリタリー・スナイパー―見えざる敵の恐怖(マーティン ペグラー) ミリタリー・スナイパー―見えざる敵の恐怖(マーティン ペグラー)

「ただ同然で働き、まったく音もたてず、姿も見せずに動きまわり、一発で相手を倒せるほど肉薄できる──そんな機械ができるまでは、我が地位は安泰というわけだ」(ある現役スナイパーの言葉)

1500年代から現在までの、スナイパーの歴史、装備、訓練方法の変遷を解説したものが本書だ。

最近読んだ類書としては、狙撃手(スナイパー)(ピーター ブルックスミス) 狙撃手(スナイパー)(ピーター ブルックスミス)戦場の狙撃手(マイク ハスキュー) 戦場の狙撃手(マイク ハスキュー)があるが、両者と比較すると、

  • 狙撃手のエピソード:少なめ
  • 掲載写真:多め
  • 銃をはじめとする装備についての解説:非常に多い

と言ったところだろうか。

特に装備の変遷は、非常に詳細。ライフルについても然ることながら、スコープやマウントの解説は前掲の類書にも、ほとんど載っていない事項なので、資料的価値が高いのではないかと思う。

本書は下記の章立てで構成されている。

  1. スナイパーとは何か
  2. ライフル銃手の登場 1500‐1854年
  3. 南北戦争ならびにヨーロッパの戦争 1854‐1914年
  4. 転機の訪れ―第一次世界大戦 1914‐16年
  5. 反撃―第一次世界大戦 1916‐18年
  6. ロシアの狙撃兵と、その戦術 1936‐45年
  7. ドイツ軍スナイパーと対ソ戦 1941‐45年
  8. 日米対決―太平洋戦争 1941‐45年
  9. 西部戦線 1930‐45年
  10. 限定戦争 1945‐85年
  11. ヴェトナム戦争―アメリカ没落の元凶
  12. 21世紀の展望

全般的な印象として、スナイパーの勃興から第二次世界大戦までにかなりの重点が置かれており、それ以後については、あまりページ数が割かれていないので、最近の狙撃手について知りたいと思っている人には少し物足りないかも知れない。

ただ、スナイパーが組織的に戦場に投入される契機となった、第一次世界大戦を解説した

  • 『転機の訪れ―第一次世界大戦 1914‐16年』
  • 『反撃―第一次世界大戦 1916‐18年』

の二章は、狙撃術とともに、その装備が急速に発展する様子が詳しく語られており、非常に面白かった。スナイパーに興味を持つ人であれば、確実に楽しめるものと思う。その他、第二次世界大戦時の地獄のごとく東部戦線で展開されたスナイパーの戦いについて語った『ロシアの狙撃兵と、その戦術 』(ソ連側には女性スナイパーも多かったと言う)と『ドイツ軍スナイパーと対ソ戦』、また、ノルマンディ上陸後のスナイパーの苦闘を解説した『西部戦線』もお薦め。

ちなみに、他の退役軍人とは違い、ノルマンディで戦った元スナイパーで彼の地を再訪するものは皆無だと言う。本書に掲載されている、そんな元スナイパーの言葉を引用しておく。

「ノルマンディでスナイパーとして戦ったとき味わったあの絶対的な恐怖感は、とても手持ちの言葉では伝えられない。50年間、私が決してあそこに足を向けないのは、それが理由だ。誰でも自分にとっての悪夢の地をわざわざ訪問しようとは思わないだろう。」

その他、本書の内容のうち、個人的に興味深かったことを列挙しておく。

  • アメリカでは、銃を乱射した犯人について、マスコミが「スナイパー」という単語を当て嵌め誤用することがあったが、軍の要請で「ライフルマン」という単語を使うようになった。その際、軍は、スナイパー訓練所にマスコミを招待し、偽装して隠れたスナイパーを見付けさせたり(見付けられたものは皆無だった)、その狙撃術を披露したとのこと。「ハッカー」という言葉の誤用を彷彿とさせて興味深い。
  • 類書と同様に、いかにスナイパーが敵・味方問わず嫌われる存在であるかが、本書でも示されている。著者が行なった聞き取り調査で、拘束された後、捕虜となった(つまりはそのまま殺害されなかった)スナイパーの確認がとれた人数は、たった1人とのこと。
  • 類書では、18世紀のアメリカがスナイパーの勃興期であるとされているが、本書によれば、既に1600年代にはライフル銃が実用化され、欧州で使用されたという。
  • 銃身が木などで被われていると、弾丸を撃ち出した際に、銃身が音叉のように一定のピッチで振動する「調和振動」という現象が起こらず、次弾以降の発砲に、初弾と同様の精度が維持できなくなるとのこと。
  • 第一次世界大戦時、連合国はドイツ側スナイパーがダムダム弾のような不正規改造弾を使用していると信じていたが、本書によれば、そのような弾丸は、弾道学的特性が変化し、おそらく安定性にも影響が出る可能性があるので、スナイパーが実際に使用していた可能性は低いとのこと。コミックや小説等でスナイパーが弾丸に様々な処理を施す(例えば、先端を切断する、削る、など)場面が時折登場することがあるが、リアリティに欠けるようだ。
  • ベトナム戦争当時、米軍のスナイパーは暗視照準器付きのライフルを使用したが、北ベトナム軍(NVA)側も、第二次世界大戦中に、アメリカよりソ連に供給された暗視照準器を、ソ連から供給され、使用していた例もあるとのこと。第二次世界大戦中に、アメリカからソ連に暗視照準器が提供されていたとは知らなかった。

かなり満足のいく内容ではあったのだが、本書の最大の欠点はその値段。大日本絵画から出版された軍事関連書籍の通例ではあるのだが、非常に値段が高く、本書はなんと5,985円(税込)! その分の価値はあるとは思うし、内容が内容だけに飛ぶように売れるということもないと思われるので、仕方がない側面もあるのだが、一読者としては、もう少し安くならないかなーというのが正直なところ。

そんな訳で、少々手を伸ばし難い価格ではあるが、スナイパーに関心がある人には、前掲した類書とともに強くお薦めできる一冊だ。

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