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2007-06-10(Sun) [長年日記]
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新装版 アメリカの日本空襲にモラルはあったか―戦略爆撃の道義的問題(ロナルド シェイファー)
第二次世界大戦中、一般市民の殺傷を目的として、アメリカによって行なわれた日独に対する戦略爆撃。そのような作戦を立案した軍人、それを技術的に可能とした科学者、そして、最終的に許可した政治家といった人的要素について考察したものが、本書『アメリカの日本空襲にモラルはあったか』である。
冷静な視点で、戦略爆撃についてがどのように一般市民を巻き込むようになったかについて緻密に考察しており、高く評価できる一冊だった。
本書を読んで、驚くのが、米陸軍航空軍が、紆余曲折はあったものの、既に1920年代にはジュリオ・ドウエット(ドゥーエと呼ばれることも多い)の理論を基礎として、一般市民を対象とする爆撃を視野に入れていたことである。このような考えに基づき、アメリカは第二次世界大戦に参戦前である1941年夏には、一般市民への攻撃も含んだ戦略爆撃計画を策定することになる。
航空将校が心理的抵抗を感じることなく、上記のような計画を立案した(さらには、その後、指揮した)背景には、彼らが若手将校だった時に事故死がありふれたものであったことがあるという、著者の重要な指摘がある(p.29)。絶えざる死という現実に晒された結果、彼らは死について、諦観を覚え、より「現実的」になったという。
それを証明するものの一つが、1942年の東京初空襲を指揮したドゥーリトルが飛行教官だった時のエピソードだろう。ドゥーリトルが生徒を訓練している時、目の前で訓練生の飛行機が墜落した。ドゥーリトルは事故機に目を向けようとせず、別の生徒に「次!」と言った。それを見ていた別の教官にそのことを非難されたドゥーリトルは「死んだ子のことは今晩考える」と答えたと言う。
この結果として、彼らは第二次世界大戦中、「死とは敵軍ばかりではなく敵国市民の死でもあり、彼らの多くは敵国市民の死傷者を自分らの仕事の必然的結果として受け入れ(p.31)」るようになった。
しかし、たとえ死に慣れていたとしても、決して航空将校たちは性根から冷酷になった訳ではない。さらには、一般市民をも標的として爆撃計画には、軍人ばかりではなく、死に慣れている訳もない、科学者や政治家も関わっていた。では、なぜ、彼らは、敵国民だとはいえ、女性や子供を殺傷することに表立って異議を唱えた人間が少なかったのか。著者は社会心理学者アービング・L・ジェニースが「集団思考」と呼んだ心理的防御の集団的パターンを用いて次のように説明する。
集団思考の影響を受けた人々は、誤った認識に陥り、自己満足的、無批判的、非合理的なほど楽天的になった。彼らは(中略)スローガンやイデオロギー的な決まり文句を使って敵について討議した。異論をもっていたメンバーは(中略)表面上の合意を乱すことを恐れた。(p.260)
このような心理の元、ドレスデン大空襲と東京大空襲は実行され、広島と長崎に原子爆弾が投下されることとなったのである。
本書については、内容と同様に、その価格面においても高く評価されるべきだろう。300を超えるページ数でありながら、1,470円(税込)という価格設定は、旧版が2,625円(税込)であったこともあわせて考えれば、文句なしと言えるものだ。このような良書が手に入れやすい価格帯で販売されている意義は大きいものと思う。
ただ、本書にも難点はある。
まず、ホワイトハウスから連なる命令系統図もしくは組織図が掲載されていないこと。戦争を扱っている以上、様々な人名が登場するのは当然なのだが、誰がどのポストに就いていたのかが分からず、確認するためにいちいち前を読み返さなくてはいけなかった。読者のリーダビリティ向上のためにも、付録として、なんらかのチャートが欲しかった。
次に、発言や引用の出典が書かれていないこと。ノンフィクションとして信頼性を増すためにも、出典一覧は欠かすことが出来ないものではないのかと思う。*1
最後に──これが最大の問題だと思うのだが──本書のタイトル『アメリカの日本空襲にモラルはあったか』が内容に合っていないこと。日本と同じ程度のページ数で、ドイツへの戦略爆撃を論じていることや、原書のタイトルがWings of Judgment: American Bombing in World War IIであることを考えれば、『アメリカの戦略爆撃にモラルはあったか』くらいが適当ではなかっただろうか。
内容・価格ともに高く評価できるものだけに、上記の点は非常に残念だった。
最後に個人的見解を。
はたして、アメリカの日本空襲にモラルはあったのか?
答えはノーである。たとえ、米軍に道徳的な問題を感じた者がいたとしても、軍の方針が敵国一般市民の殺戮を容認するものだった以上、それは個人的な感情にすぎない。その点については非難されてしかるべきだろう。しかし、翻ってみて、日本が戦時中に軍の方針として行なった作戦にモラルはあったのだろうか。著者の言葉、
これまでの戦争で人々がお互いに対し何をしたか、どのように、なぜおこなったかをよく考える必要があるだろう。(p.303)
を念頭において、戦争という行為自体について、改めて考えてみる必要があるだろう。
戦争について冷静な視点で考えてみたい人にお薦めしたい良書である。
なお、本土空襲について、日本側から見た防空戦については
死闘の本土上空―B-29対日本空軍 (文春文庫)(渡辺 洋二)をあわせて読むことをお薦めする。東京大空襲の日、少数の邀撃機しか出撃しなかった理由をはじめとして、日本側の実態が良く理解できるものと思う。

新装版 アメリカの日本空襲にモラルはあったか―戦略爆撃の道義的問題
- ロナルド シェイファー、深田 民生
- 草思社
- 1470円
livedoor BOOKS
書評/歴史・記録(NF)

*1 原書にも出典一覧は掲載されていなかったのだろうか? 原書がアメリカで出版されたものであることを考えると、そうではないと思うのだが。



まで頂ければ幸いです。
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