ぽっぺん日記@karashi.org
2007-07-27(Fri) [長年日記]
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地球を斬る(佐藤 優)
「フジサンケイ ビジネス・アイ」に連載されている同名コラム『地球を切る』の第1回から60回までに、キーワード解説と検証を付けて書籍化したもの。
連載も読んでいたが、まとめて読むと、また違った面が見えて、なかなか面白かった。ただ、内容的には、上記のコラムと同一な上、付記された部分もそれほど凄いことが書かれている訳ではないので、どうしても本でないとダメな人か、よほどの佐藤優ファン以外は、オンラインで読めば充分という気がしないでもない。
巷に溢れるお手軽なブログ本とは違い、きちんとした書籍の形態になっていることは評価出来る。
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外注される戦争―民間軍事会社の正体(菅原 出)
『虐殺器官』でも重要なピースとなっていた、戦争業務を代行する民間軍事会社(Private Military Company=PMC)*1に関するノンフィクション。261ページ(巻末資料を含む)というコンパクトなページ数ながら、非常に良く取材されており、現在のPMCの実態がよく分かる内容となっている。
「戦争業務を代行」と書くと、一昔前の映画に登場する傭兵であるかのようである。もちろん、傭兵のような面もないことはないが、実際のPMCの活動はさらに幅広いものであり、要人や重要施設の警備、地雷や不発弾の処理、軍隊や警察の訓練、収容所の運営、捕虜の尋問といった軍事的ものから、食事や洗濯、掃除といった日常サービスまで及ぶ。本書は、PMCが単なる傭兵などではなく、新たな安全保障環境が求めるニーズに応えるために必然的に生まれたビジネスであり、米軍がもはや「PMCなしには活動することは不可能」とまで言われているほど、PMCと不可分の関係であることを浮き彫りにしている。
冷戦以後、世界の不安定化と、軍隊の縮小化によって職を失った軍人たちの受け皿として、規模を拡大してきたPMCであるが、今までのない形で活用されることとなったのが、イラク戦争だった。
イラク戦争にあたって、ブッシュ政権は、有権者の支持を失わないためにも、最低限の兵力での戦争遂行を目指した。そこで、足りない後方支援等をバックアップするために頼ることとなったのがPMCだった。当初は後方支援のみだったはずのPMCの投入は、甘過ぎた戦争終結計画のツケにより、その活動範囲を拡大していく。その結果として、巨額の事業がいくつもPMCに発注されることとなり、それを狙った有象無象のPMCがイラクの市場に参入。著者が「PMCバブル」と呼ぶ奇妙な好景気が生じることとなった。
本書の中では、イラクのPMCの活動については、提供される警備サービスや訓練メニューを絶賛する米軍関係者がいる一方、不正請求問題や、多重の下請け構造による中間マージンにより末端の社員に対する安全面についての費用まで削減される問題、さらには一般人に対して無差別に発砲し殺害している言語道断な事件など、様々な問題があることが明らかにされる。
PMCバブルという現象は、90年代後半のITバブルを想起させるものがある。eやiといった名前が付いた企業になんの裏付けものないまま、大量の資金が投入されたのと同様に、PMCとさえ名乗れば、*2実態のないような企業とであっても、巨額の契約が結ばれたのがPMCバブルだった。PMCというビジネスが成熟し、既存のビジネスの枠組みに組み込まれたならば、上記の問題を起こすような問題企業や、適切な「サービス」を提供できない企業が淘汰されることになるとは思われるが、その一方で戦争の民営化が加速することは間違いないことだと思われる。
PMCがその活動規模を拡大したことにより、従来で考えられなかった現象が生まれている。その一つが、PMCが提供する高い報酬や高度な訓練プログラムに惹かれ、米軍の特殊部隊からPMCへと移籍する特殊部隊員(オペレーター)が急増しているというものだ。米軍は深刻な人材流出を食い止めるべく、ボーナスの支給や訓練プログラムの見直しを行なっているという。
また、PMCの求人もその内容からは考えられないオープンなものになっている。インターネット上にPMC専門の求人サイトが多数存在し、情報機関や治安機関出身者のためのジョブフェアさえ開催されているという。「戦争代行企業に就職活動をする」という、まるでディストピア小説に登場しそうな現実は、ひどくアイロニカルに感じられる。
第7章は、英PMCの提供するジャーナリスト向けセキュリティ訓練に著者が参加した際の体験ルポとなっている。様々な訓練を経た後、東欧の紛争地を模した演習場で、TVクルーに扮した著者たち訓練生が、戦場さながらの状況での判断能力を試され、最終的には武装勢力*3に拉致され、処刑されるまでが描かれる訳だが、処刑された後の教官の
「絶対にあきらめてはいけないのよ。最後の最後までどんな小さいきっかけでもいいから見つけて生き残るように全力を尽すの」(p.236)
という言葉が印象深い。
本書はあくまでも欧米のPMCに関するドキュメンタリーであるが、日本も無関係でいられる訳ではない。著者は日本の憲法第9条改正の動きにも触れ、このように述べている。
たとえ「普通の軍隊」をもったとしても、すでに世界最強の米軍がPMCなしに軍事ミッションを遂行できない状況にあるのが、安全保障の世界の現実である。これからは日本もPMCとどのように付き合い、どのように活用していくのかという問題を避けて通ることはできないだろう。(p.14)
将来、9条が改正され、自衛隊が海外での軍事活動を本格化するならば、それをPMCがバックアップするという構造が生まれるのは必至だろう。*4本書のあとがきによれば、著者は、英PMCアーマー・グループの日本法人にコンサルタントとして加わることになったそうである。PMCビジネスが日本で広まれば、日本の資本によるPMCが生まれる可能性も考えられるかも知れない。
冷戦の終結とグローバリゼーションの拡大、そして対テロ戦争によって大きくなった、戦争の民営化という大きなうねりを知るためにも、一読をお薦めしたい。


まで頂ければ幸いです。
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