ぽっぺん日記@karashi.org
2007-09-22(Sat) [長年日記]
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国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて(佐藤 優)
「外務省のラスプーチン」こと佐藤優の処女作にして、「国策捜査」という言葉を世に知らしめた一冊。
佐藤優作品は
と読んできたのだが、本書はずっと未読だった。 処女作にはその作家のすべてがある、とはよく言われる言葉だが、佐藤優作品を読む上での前提知識となる北方領土交渉や、著者が罪に問われた一連の事件(いわゆる鈴木宗男事件)について、 その端緒から解説されている本書は、その言葉がぴたりとくる一冊と言っていいだろう。
日露交渉の舞台裏から、著者の逮捕に繋がる外務省内での権力闘争*1、また著者にかけられた嫌疑の根拠とされたイスラエルでのコネクションを描いた第1章〜第3章も興味深かったのだが、著者が逮捕収監された後の拘置所での取調べから一審の結審までの軌跡を明らかにした第4章〜最終章は、個人的に最もエキサイティングな部分だった。
著者と取調べを担当する検事の間で行なわれるのは、「取調べ」という言葉から想像することもできない、外交交渉もかくやと言う、知力のぶつかり合いだ。 彼らは、事件が国策捜査であるという認識を共有しつつ、事件について語り合う。 その過程で、信頼関係を築き上げ、これまでの日露外交が毀損されず、また、著者の周りの人間にも類が及ばない形での落とし所を模索していくのだ。 著者がかけられたすべての嫌疑を否認しつつも、供述調書にサインをしたのは、この交渉の結果ゆえだった。
ご存じの通り、一審の判決は、著者の有罪となるのだが、その前段で語られる被告人最終陳述は、鈴木宗男事件の意味をインテリジェンスに携わる者特有の冷徹な視点で捉えたものであり、事件に興味を持つ人であれば必読だろう。
なお、個人的に興味深かったのが、行間から垣間見える、日露外交における著者の盟友の一人である東郷和彦氏に対しての複雑な感情だ。
他の著作も含めて、著者は一貫して、東郷氏の能力の高さを認めつつも、その人格については、それほど評価していないようだ。その原因の一つは、事件が起きた後、東郷氏が海外に「逃亡」し、著者の一審に参考人として出廷することを拒否したことにあるのではないか、というのが本書を読んで感じたことだ(ちなみに、二審では東郷氏は参考人として出廷している)。 本書の中で、著者は東郷氏が出廷をせず、自身の幸せ(保身とも言えるが)を追求したことに理解を示しつつも、前掲の被告人最終陳述で、名指しこそしていないが、このように述べている。
当時の上司は外国に逃亡してしまうという外務省文化が私の事件を巡って露呈したことには大きな意味があると思います。(p.389)
法廷戦略なのか、それとも本心であるのかは不明だが、著者と東郷氏の関係を考える上で興味深い言葉であることは事実だ。
本書は、北方領土を巡る日露交渉や鈴木宗男事件の入門書であると共に、佐藤優作品・入門とも言える一冊だ。 これから佐藤優作品を読もうと思っている人には、なによりも先に本書を読むことをオススメしたい。
*1 ちなみに、本書ではイニシャルで書かれている人物が、あとの本では本名で書かれていたりする。
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犯人に告ぐ 上 (1) (双葉文庫 し 29-1)(雫井 脩介)
本が好き!経由で献本して頂いた。
初・雫井脩介作品だが、メチャクチャ面白くて一気読み。
あらすじは以下の通り。
神奈川県警の警視、巻島史彦は、男児身代金目的誘拐事件を管理官として指揮することとなる。しかし、予断を持った捜査や、県警と警視庁の主導権争いによる対応のまずさが災いし、身代金の受け渡しに失敗。犯人らしき男を目撃するものの取り逃がし、人質となっていた男児の命は無惨に奪われる最悪の結果を招くこととなる。捜査の責任を取らされる形で記者会見に臨んだ巻島は、公私に渡る精神的なプレッシャーから大失態を演じてしまう。 それから6年後、神奈川県川崎市では日本を揺がす大事件が発生していた。5から7歳男児を標的とした連続殺人である。犯人は〔バットマン〕と名乗り、マスコミを巻き込んだ劇場型事件を展開していた。事件解決の糸口さえ見えない中、神奈川県警もまた、犯人を誘き出すために、マスコミを巻き込んだ奇策「劇場型捜査」を行なうことを決意する。 担当捜査官として白羽の矢が立ったのが、マスコミの怖さを知る警察官──6年前の大失態により足柄署に左遷されていた巻島だった。巻島の再帰を賭けた戦いが今始まる!
最初に書いた通り、本当に面白くて寝るのも惜しんで読み切ってしまった。
巻島と部下の交流あり、 捜査(特に指紋について詳しい)に関するトリビアあり、 マスコミ間の視聴率を巡ったスクープ合戦あり、 私欲のため*1捜査情報をリークする警察側の人間あり、 その裏切り者をあぶり出すために仕掛けるトラップあり、 突如として甦る6年前の誘拐事件ありと、 まさにエンターテイメント小説の極致とでも言うべき展開の数々に、 面白い映画を夢中になって観るかのごとく、どんどんページを繰らされてしまった読書時間だった。巻島のクライマックスの決め科白「今夜は震えて眠れ」は、もうカッコ良すぎだ。
しかし、なんと言っても個人的に気に入ったのが、6年前の事件では被害者に冷淡だった巻島が、連続男児殺害事件では被害者家族に細かな気遣いを見せる人間へと変化している場面だ。よくあるストーリーと言えば、そうなのだが、そこで見られる心の交流がなんとも言えず良い。
しかし、正直なところ、読了して、ちょっと時間を置くと、読んでいる最中には気付かなかったアラが見えてくるのも事実。
犯人逮捕に結び付く切っ掛けは、捜査とはあまり関係ない、完全に僥倖によるもの*2というのも、ちょっと気になるが、個人的に、特に大きな違和感を感じたのが、6年前の誘拐事件で、現場に立っていた巻島を記者会見に一人きりで望ませた上司の対応。このようなある程度の情報操作の必要とされる場面で、あまりにも多くを知り過ぎている人物に対応をさせるのは、「失言してくれ」と言っているのようなもので、失策以外のなにものでもない。概要程度を知っている程度の人間に主な対応をさせ(なぜなら、知らない人間は、知っている以上のことは喋れない)、現場にいた人間は矢面に立たせないのが定石ではないかと思うのだが……。いくら警察が官僚組織とはいえ、あのような大失態が起きれば、現場の担当者のみが責任を問われるなどということは考えられず、その直接の上司に類が及ぶことは必至だろう。
と、まぁ、重箱の隅を突ついてみたが、読んでいる最中はそんなことを感じさせず、ぐいぐい読ませる著者の筆力には脱帽だ。 面白い小説を読みたい人には、一も二もなくオススメしたい作品だ。
なお、最後になるが、本書は映画化されるそうである。巻島を演じるのはトヨエツこと豊川悦司ということなのだが、本書のイメージにぴったりな配役だ。あまりにも、しっくりきすぎて、著者は最初からトヨエツをイメージしていたのではないかなんてことを勘繰ってしまった。
犯人に告ぐ 下 (2) (双葉文庫 し 29-2)
双葉社
¥ 650
- 雫井 脩介
- 双葉社
- 630円
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書評/ミステリ・サスペンス





まで頂ければ幸いです。
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