ぽっぺん日記@karashi.org
2007-10-06(Sat) [長年日記]
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中国・ロシア同盟がアメリカを滅ぼす日―一極主義 vs 多極主義(北野 幸伯)
本が好き!経由で献本して頂いたのだが、スゴイ本で、一気に読んでしまった。
モスクワ在住の国際関係アナリストである著者が、アメリカの覇権戦略とそれに対抗する中国・ロシアの戦略を初心者にも分かりやすい平易な語り口で解説しているのが本書。
語り口は易しくても、その切り方は大胆だ。
著者は、本書のはじめで、いきなり、
国民にとって金を稼いでくれるのがいい指導者、稼がないのは悪い指導者。(p.28)
(外交上の)国益とは金儲け(経済成長)と自国の安全である。(p.29)
と喝破する。 つまり、国にとって重要なのは、なによりも金であると言っているのだ。
その金儲けを実現するためにアメリカが行なっている世界戦略の2つの柱が
- ドル体制の維持
- 将来に渡る、石油や天然ガスといったエネルギー資源の確保
であると著者は述べる。
東欧や中央アジアの旧ソ連諸国で、民衆が民主化を求めて立ち上がったカラー革命は、 フランシス・フクヤマ著『歴史の終わり』の「リベラルな民主主義が政治の最終形態」という考え方の証左であり、 9・11からアフガン戦争、イラク戦争といった流れは、サミュエル・ハンチントン著『文明の衝突』の言うところの「キリスト教のイスラム教の対立」という文脈で語られることが 多いが、著者はそのような考え方を「インチキ」であり、「アメリカが自己の行動を美化するために、二人の理論を利用している」だけだと一蹴する。
では、著者の見立てはなにか?
カラー革命は、アメリカが石油や天然ガスを確保するために行なった謀略であり、イラク戦争や現在計画中とも言われるイラン攻撃は、石油の確保とドル体制を維持するために行なわれたというのだ。 一見すれば、巷に溢れるトンデモ本を思わせる展開だが、そこには著者の鮮やかな情勢分析がある。
著者の分析でも、特に、個人的に目から鱗が落ちたのが、アメリカがドル体制の維持に躍起になる理由として、巨額な貿易赤字を上げている点だ。 財政赤字と共に「双子の赤字」とも呼ばれるそれは、もしドルが基軸通貨から転落すれば、アメリカ経済を確実に破綻させてしまうものなのだ。 それを防ぐため、アメリカはドル体制に挑戦しようとする国には、軍事力を行使してまで、それを阻止しようとする。
たとえば、イラク戦争。フセイン政権は2000年より石油取引をユーロのみで行なうことを宣言した。これは明白はドル体制への挑戦だ。 2003年にイラク戦争が勃発し、短期間で首都バグダットは陥落。しかし、イラクの情勢は安定せず、いまだに出口の見えない混迷状態にあることは周知の事実だが、 ドル体制の維持という視点から見て重要なのは、2003年の段階で、アメリカがイラクでの石油取引をユーロ建てからドル建てに戻した、という事実だ。
そして、アメリカの次の目標ではないかと言われているイランも、また、石油取引をユーロ建てに転換しようとしていることで知られている。 著者は、アメリカにとってイランを本当に攻撃したい理由は、核兵器開発疑惑などではなく(実際、イランが核兵器を持つとしても10年近い歳月がかかる!)、ドル建てによる 石油取引を維持させることにあるのではないかと見る。
しかし、このような世界戦略に裏打ちされたアメリカによる覇権主義にも翳りは見えてきた。それが中露同盟である。 今までライバル関係にあった中国とロシアが同盟関係を結び、アメリカを覇権国家から引きずり下ろそうと画策しはじめたのだ。 そのために両国が行なった戦略が、中国による米国債の大量保有であり、ロシアによるカラー革命封じと、原油および天然ガスのルーブルによる取引開始だ。 なぜ、中露両国の戦略がアメリカの覇権国家としての地位を揺がしかねないものであるのかは、本書を読んで確かめて欲しい。深く頷けること間違いなしだ。
なお、最終章では、アメリカ対中露同盟の争いに、日本が巻き込まれた場合の対策について、いくつかの選択肢が提示されている。 それらは非常によく考えられており、対中および対露関係を考える上で必読といってもいいのではないかと思う。
最後に、著者の視線についても強調しておきたい。平易な語り口に騙さそうになるが、その視線は非常に冷徹なものだ。
たとえば、著者は以下のように述べ、将来、日本が国際社会というゲームにおけるパワー・プレイヤーになることはないと断言している。
バブル崩壊後も「21世紀は日本の時代だ!」などと言う人がいました。 そう言いたい気持ちもわかります。私も祖国日本を愛していますから、そういう希望的な言葉を言いたい。 しかし、予測・分析する立場としては、真実を語らざるを得ません。日本は覇権国家になれないのです。(p.91)
また、憲法九条改定*1にも触れているが、 アメリカがイランに対して戦端を開かないことを見極めてからにするべきだと書いている。その理由は、平和憲法の理念などとは、一切関係がなく、
10億人のイスラム教徒を敵にまわせば、日本でテロが起きるとか、外国で日本人が殺されるとか、いろいろな実害が出てきます。(p.230)
という限りなく現実的なものによる。このような冷徹な視線があるからこそ、本書で提示されているような、大胆な切り口で世界情勢を見ることができるのではないだろうか。
著者はあとがきでこう述べている。
この本は、皆さんの視点を世界の指導者レベルまで一気にひきあげる目的で書かれています。(p.251)
この言葉が正しいかどうかは読者に判断して欲しいが、個人的には良い線をいっているのではないかと思う。 値段は,575円(税込)という、濃い内容と比較すれば、安価といってもいい価格であるし、ページ数も2〜4時間程度で読み切れる、ほどよい長さだ。 それだけのお金と時間で世界情勢の深い部分を理解することができる本書は、非常にコストパフォーマンスが高い本ということができるだろう。
現在の国際情勢、そして、これからの日本の進むべき道を知りたい人に強くオススメしたい一冊だ。

中国・ロシア同盟がアメリカを滅ぼす日―一極主義 vs 多極主義
- 北野 幸伯
- 草思社
- 1575円
livedoor BOOKS
書評/社会・政治

*1 ただし、個人的には、安倍政権の退陣によって、九条改定がなされるとしても、かなり先のことになるのではないかと思う。



まで頂ければ幸いです。
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