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ぽっぺん日記@karashi.org


2007-10-18(Thu) [長年日記]

_ 雲上都市の大冒険(山口 芳宏) 雲上都市の大冒険(山口 芳宏)

昭和27年、東北の鉱山街・四場浦鉱山の奥底の地下牢で、ひとりの男が20年来の復讐の炎をたぎらせる。そして巻き起こる連続殺人事件。脱出不可能な地下牢から男はどう脱獄したのか? 事件を解き明かすために、眉目秀麗で気障な荒城咲之助、近未来的な義手を持つ真野原玄志郎、さらに弁護士の私・殿島直紀が驚愕の脱出トリックに挑む。(東京創元社の紹介文より引用)

本が好き!経由で献本して頂いた。

第17回鮎川哲也賞の受賞作が本書『雲上都市の大冒険』だ。 鮎川哲也賞と言えば、比較的硬派な本格ミステリを扱う新人文学賞というイメージがあるが、本書はそんなイメージを覆す、ぶっ飛んだ怪作(バカミス?)で、色々な意味でびっくりさせられた。 本書の巻末には、選考委員である笠井潔、島田荘司、山田正紀、三氏の選評が掲載されているが、そこからは本作を受賞作とするかどうかについて、かなりの逡巡があった様子が窺える。

本書の時代設定は昭和27年ということだが、はっきり言って時代考証はめちゃくちゃ。本書の舞台である四場浦鉱山は、東北の山奥であるはずなのだが、すべての登場人物は方言ではなく標準語を喋るし、女性たちには田舎っぽさの片鱗もなく、垢抜けた美人ばかり。島田氏が選評で「受賞どころか出版さえ危ぶまれる」と書くのもむべなるかなという感じのいい加減さである。

さらに、文章についても、初盤でのぎこちなさはかなり目につく。 小説と言うよりは、まるでアドベンチャー・ゲームでのコマンド選択と、それに対してのリアクションを読んでいるかのような違和感を覚えた箇所も多々あった。著者のプロフィールによれば、ゲームライター/シナリオライターとのことだが、その悪い面が出てしまったと言えるかも知れない。

しかし、「なんだかなー」と思いつつ、我慢して読み進めていたのも、だいたい100ページくらいまで。 そこから先は、著者の筆のノリが格段に良くなり、非常に楽しく読めるようになる(まあ、読み手であるこちらが慣れて、細かな点には拘泥しなくなったということもあるかも知れないが)。 特に、探偵役の一人のセリフ、

「もちろん、犯人をぶっ殺しに行くんですよ」(p.226)

を読んでからは、もう完全に作品世界に没入し、ぐいぐい引っ張られるままに、一気読み。

本書の読み所はなんと言っても、20年間に渡り地下牢に幽閉されていた男──座吾朗の脱獄トリックだろう。このトリックが成立するか否かと問われれば、まず無理と答えるが、前代未聞の大トリックであることは間違いない。このトリックの真相を読むだけでも、本書を読む価値があるのではないかと思う。 真面目な本格ミステリ・ファンの中には怒り出す人もいるには違いないと思うが、個人的には「すげーバカミス!」と喜んでしまいました。はい。

作品の内容とは関係ないが、本書の装丁が非常に良かったので、そこにも触れておきたい。装丁の中でも、特にカバーデザインは、作品の特色をよく表した装画とマッチして、非常にセンスの良いものに仕上がっている。また、実際に持った感触も、エンボスの入ったカバーにより特筆ものの心地良さだ。カバーデザイナーを調べてみたら、予想通り、岩郷重力+WONDER WORKZだった。彼らの仕事のクオリティの高さには毎度のことながら驚かされる。

色々と欠点がある本書ではあるが、そこには荒削りながら、本格ミステリの新しい世代誕生の気配が感じられる。 新人賞への応募作でありながら、次回作の予告とも取れる文章を書いてしまう大胆不敵な著者には、ぜひ予告通り続篇を書き、次世代の本格ミステリを見せて欲しい。

ちなみに、真野原の義手の元ネタは、仮面ライダースーパー1のファイブハンドではないかと思ったのだが、どうだろうか?


雲上都市の大冒険

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書評/ミステリ・サスペンス

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