ぽっぺん日記@karashi.org
2007-12-01(Sat) [長年日記] この日を編集
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オタクコミュニスト超絶マンガ評論(紙屋 高雪)
築地書館さんより本が好き!経由で献本して頂いた。築地書館様、感謝致します。
共産主義者(コミュニスト)にして、漫画書評サイト紙屋研究所所長である著者による漫画評論集が本書。
『オタクコミュニスト超絶マンガ評論』というスゴいタイトルな上、るるてんのきあ氏による「カバーをかけないと公衆の面前では、オッサンはちょっと読み辛い」装画も手伝って、「『萌え』にミックスして、『革命』や『解放』、『階級闘争』、『マルクス・レーニン主義的 ○○』などというという単語が大量にちりばめられたアジビラような評論」なんてものを想像していたのだが、実際に読んでみたところ、至って正統派な評論ばかりなので、非オタク、非コミュニストの人にも充分オススメできる一冊だった(個人的には、アジビラのような書評もちょっと読んでみたい気もするが。ネタとして)。
本書で取り上げられている作品は全部で33(数え間違いがなければ)あるのだが、そのうち、私が読んだ(or 見た)ことがあるものは、
- 『最終兵器彼女』(高橋しん)
- 『孤独のグルメ』(久住昌之・谷口ジロー)
- 『皇国の守護者』(佐藤大輔・伊藤悠)
- 『夕凪の町 桜の国』(こうの史代)
- 『ワーキングプア』(NHKスペシャル)
の5つしかない。著者は漫画評について、このように述べている。
漫画は社会意識の反映である(ただし鏡のような単純な反映ではないが)。そのことを暴き、引きずり出し、語り合う快楽というものが漫画評論には必要ではないのか。(「はじめに」より引用)
このようなスタンスで書かれた評論は必然的に、その作品に触れていない読者を突き放すような形になりがちなのだが、著者は硬軟を使い分ける見事な筆致によってそれを回避し、未読の作品についても、その面白さを伝えることに成功している。あとがきで著者が本書の目標として掲げている
「読者はその漫画を読んでいないのに、評論としては面白く読める」(p.340)
を達成していると言っていいものと思う。
本書に収められた評論はどれも面白かったのだが、その中でも、特に気に入ったものが、『孤独のグルメ』を論じたものだ。著者はこの作品を「グルメ漫画の最高傑作(p.41)」と評しているが、私も完全に同意する。未読の人は、読まないまま、この世を去ることになると非常に大きい損なので、明日にでも読むことをオススメする。
巷に溢れるグルメ漫画とは一線を画し、ただ主人公がそこらへんの料理屋で飯を食べる風景を淡々描き出すだけで、料理に関する蘊蓄情報がゼロの本作品の本質を
主人公は「孤独」という社会関係を食べているのである。(p.46)
と浮き彫りにする。そして、それと対比させ、『美味しんぼ』を食事をする人間と社会関係にはまったく無頓着だと断じ、
クズのような安ドラマが、濡れ紙のように、へろへろと料理描写にへばりついているにすぎない。(p.48)
と切り捨てている(『美味しんぼ』の主人公である山岡の目が「目玉焼きにしか見えない(p.48)」という頷ける指摘には思わず吹き出してしまった)。
珠玉の出来の漫画評であるが、著者の主張にひとつだけ同意できない点がある。それが
これ(引用者注:『孤独のグルメ』)を読んだ後では、『美味しんぼ』はおろか、いかなるグルメ漫画も読めない。(p.41)
というものだ。 個人的には、『孤独のグルメ』に並ぶ傑作グルメ漫画が土山しげるの『極道めし』と『喰いしん坊!』だと思っているので、著者にはぜひ両作品に挑戦して頂き、いずれ評論を書いて貰いたいと思う。
本書の後半に収められた『希望は、戦争。』や『国家の品格』の評論では、著者のコミュニストならではの政治主張が敷衍されるのだが、ノンポリであると同時に虚無的もしくは冷笑的傾向がある私には、あまりにも純粋すぎるにように思えて首肯しかねる点もある。 しかし、それを差し引いたとしても読む価値のある一冊だ。
たなみに、硬いテーマが続く中で、いいアクセントになっているきあ氏のイラストや4コマ漫画であるが、第2章「恋愛とセックス」の扉に描かれた4コマ漫画は、男女のパートナーの性関係を適切に(?)表現した爆笑もの(人によっては戦慄もの)の傑作なので、機会があれば、ぜひそちらも読んで頂きたい。
- 紙屋 高雪、きあ
- 築地書館
- 1890円
書評/サブカルチャー

2007-12-02(Sun) [長年日記] この日を編集
_ 先週読んだ本
読書感想は、書けたら、あとで書く(『オタクコミュニスト超絶マンガ評論』は済み)。
日本ロボット戦争記―1939~1945
エヌティティ出版
¥ 4,725
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天使は容赦なく殺す(グレッグ・ルッカ)
ロンドンの地下鉄で同時多発テロが発生。死者300人以上を出す大惨事となった。 イスラム原理主義過激派による犯行声明が出され、英国政府は報復として組織の宗教主導者を暗殺すべく、美貌のSIS(MI6)特殊作戦部作戦課首席特務官、タラ・チェイスを中東に送り込む。 首尾よく任務を達成したタラだが、居合せた人間を射殺してしまったことから冷徹な国際政治の渦に巻き込まれることに──。ってな感じのストーリー。
広江礼威氏の装画に抵抗を示す人もいるんじゃないかと思うんだけども、個人的には全然おK。タラたんが美人に描けていてよろしいんじゃないでしょうか。
タラをはじめとして、タラの上司や部下、CIAやモサドのエージェント、テロリストなど、キャラ立ちした面々が登場するわりに、アクションシーンは少なめで、ちと盛り上がりに欠ける嫌いがあるけれども、それなりに面白いので一読の価値はあると思う。2,800円(税込)というお値段は高めだけどね(版権料なやなんやらがあるんでしょうなぁ)。シリーズものということなので、次回作に期待。
ちなみに、モサド局員にの元KGBという経歴の人間が登場するんだけども、ソ連崩壊後、大量にロシア系ユダヤ人がイスラエルに移住したという歴史的事実があるらしいので、たぶん、それほど不自然な設定じゃないはず。
しかし、グレッグ・ルッカって若いんだねー。著者略歴に書いてあった1970年生まれというのを読んでびっくりした。
2007-12-04(Tue) [長年日記] この日を編集
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皇国の守護者 5 (5) (ヤングジャンプ・コミックス・ウルトラ)(佐藤 大輔/伊藤 悠)
帰りの電車で読了。
あいかわらずの素晴しい内容だったけれども、これで完結。
うーむ。原作でいったら、たぶん、2巻くらいまでしか進んでいないのに……。 六芒郭攻防戦を伊藤悠氏の画で読んでみたかったなぁ……。
掲載誌の変更等でぜひ続きを、と思うところなんだけども、伊藤氏と原作者(佐藤大輔氏)間でなにやら揉めたのが、今回の事実上の打ち切りの原因ってな噂もあるので、もしそうだとすると、それも難しいだろうなぁ。
2007-12-06(Thu) [長年日記] この日を編集
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中国の環境問題 今なにが起きているのか (DOJIN選書 (12))(井村 秀文)
科学同人さんより本が好き!経由で献本して頂いた。科学同人様、感謝致します。
来年(2008年)には北京オリンピックを控え、驚異的な経済成長を続けている中国だが、その反映の一方で様々な環境問題を抱えていることが知られている。 水汚染や大気汚染、拡大し続ける資源消費など中国が様々な環境問題の実態とそれらに対する中国政府の取り組みを伝えるとともに、日本がどのような形で環境問題解決のために協力すべきかを示唆しているのが本書。
日中間には、靖国神社問題、東シナ海におけるガス田開発問題、尖閣諸島を領土問題化しようとする中国の思惑など、政治面、経済面に渡る数多くの問題が横たわっている。そのため、中国の問題を指摘する本書のようなタイプの本は、反中国的姿勢になりがちなのだが、著者はバランスの取れた冷静な筆致で、中国の環境問題を幅広い視点から描き出しており好印象だった。
中国の環境問題が与える影響が中国一国に収まらないということは、ある程度理解していたが、本書によって示されるその範囲は、想像していたよりもずっと大きく驚かされる。日本が受ける影響は、例えば、以下のようなものだ。
- 大気汚染物質が偏西風に乗って、大陸より日本に飛来することによって起きる、光化学スモッグや酸性雨。また同じく偏西風により日本にやってくる黄砂。
- 大陸より黄海や東シナ海に流入した海洋汚染物質が黒潮に乗って北上し、日本近海に到達する。日本近海で問題になっているエチゼンクラゲの大量発生も黄海や東シナ海の汚染が原因ではないかと著者は示唆している。
- 日本では循環型の社会を目指し、資源リサイクルを行なうための様々な基盤を整備したにも関わらず、金属スクラップや古紙、廃プラスティック、ペットボトルなどのリサイクルされるべきものが、大量の資源を求める中国に輸出されてしまい、日本でリサイクルされることが少ないという事実。
- 地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)の中国での排出量は増加の一方を辿っていて、現在では、2003年時での排出量一位だったアメリカを抜き、世界一位になった可能性がある。
それぞれの理由や根拠については本書に譲るが、中国で起きている環境問題が密接に関係していることがお分かり頂けるかと思う。 また、本書では触れられていないが、上記に関連して、世界遺産である屋久島にも、大陸からと思われる汚染物質が飛来していたという報道があったことも付記しておく。
では、中国政府の環境問題への取り組みはどうなのか。これが意外に(と言っては失礼かも知れないが)先進的なものだ。不十分と思える対策も数多いが、その幾つかは日本より進んでいると思えるものもある。
例えば、自然保護行政は、日本では森林行政と自然保護行政の農林水産、国立公園を管理する環境省の二つの省に分かれてしまっているが、中国では森林国家環境保護総局で一本化され、野生動物の保護や湿地の保全などの新しい分野に取り組んできた。また、
- 汚染を未然に防止すること
- 汚染者(開発者)が費用を支払うこと
- 環境管理を強化すること
という三つの環境保護を基本原則とした環境管理制度も整っている。
しかし、問題はそれに実態が伴なっていないことなのだ。著者は中国の問題として以下のようなものを挙げている。
- 制度の理念がいかに優れていても、それを実施に移すときの基盤となる人員、技術が不足している。
- 法律や規制の存在と、それを遵守することは別物という考え方がある。
- 公衆衛生観念がしっかりしていない。
- 地方政府が経済開発優先で、環境配慮に欠けている。
- 小規模企業に環境意識が欠如している。
上記の問題は『中国の危ない食品』で指摘されてものとまったく同じものだ。
中国は「大方の国民が食うに困らず、生活に少し余裕も出てきた(p.50)」という、「小康」社会と呼ばれる段階に入っているという。しかし、その一方で食の安全などの不安は増している。著者によれば、小康から次の段階に進もうとする今こそ、環境政策にとって転機となる時なのだという。
本書を読むと、中国は国土があまりにも広く、中央政府の指導による環境問題対策を中国全土で実施することは、かなり困難だと思わざるを得ない。しかし、日本は、中国の環境問題を中国一国の問題と考えるのではなく、同じ環境を共有する「東アジア環境共同体」の一員として捉える必要がある。中国への働き掛けと協力をどのように行なえばいいのかを教えてくれる一冊だ。
- 井村 秀文
- 化学同人
- 1680円
書評/ルポルタージュ

2007-12-08(Sat) [長年日記] この日を編集
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大冒険時代―世界が驚異に満ちていたころ50の傑作探検記
これはスゴイ本。冒険小説好きであれば、本棚に置いておいて損のない一冊じゃなかろうか。
19世紀末から20世紀半ばまでの『ナショナル・ジオグラフィック』誌に掲載された、数々の冒険記50篇をまとめて一冊にしたのが本書。611ページという大著だが、面白くて一気読みしてしまった。
収録されている冒険記は、一つの記事につき平均12ページ数という制約からダイジェスト版になってしまっているのが、ちと残念だが、ジョン・ハントとエドマンド・ヒラリーによるエヴェレスト登頂記や、真珠採り、武器商人、麻薬密売人という経歴を持つフランス人、アンリ・ド・モンフレイの紅海での海賊退治記などは無類の面白さ。特に、前者は『神々の山嶺』に震えた経験を持つ人であれば、鳥肌が立つこと受け合いなどで、ぜひ。
あと、掲載された記事から垣間見える1930年代の中国は、混迷を深めていたという言葉がなまぬるいような状況で、当時の日本が「いっちょ、俺たちで秩序を打ち立てて植民地にしてやるか」という妄想を持ってしまっても、無理もないかなあという気がしたり。や、誉められたことではないのは、もちろんだけどね。
今回は一気読みしてしまったけれど、空いた時間に一篇ずつ読み、「安楽椅子探偵」ならぬ「安楽椅子冒険者」となってみるのも一興ではないかと。
2007-12-09(Sun) [長年日記] この日を編集
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通訳 (海外文学セレクション)(ディエゴ・マラーニ)
東京創元社様より本が好き!経由で献本して頂いた。東京創元社様、感謝致します。
EU(ヨーロッパ連合)理事会の通訳・翻訳官であり、人工言語「ユーロパント」の考案者でもあるディエゴ・マラーニによる小説第三作が本書。地続きの中に多数の言語が渦巻くヨーロッパという地を感じさせる、言語幻想小説とでも言うべき一冊だ。
本書の主人公は、ジュネーブの国際機関で通訳サービスの責任者を務める中年男、フェリックス・ベラミー。彼は、監督下にある通訳が同時通訳中に、どの言語でもない言葉を発するという異常行動を取っているとの報告を受ける。十五カ国語を操る問題の通訳は未知の言語を発見したと主張し、ベラミーにつきまとうが解雇され失踪する。しかし、通訳の持つ言語学的な狂気は伝染性のものだった。通訳より伝染させられた狂気により家庭も仕事も失ったベラミーは、通訳を追い全欧を放浪する。
薬のように、症状に応じて外国語学習を処方し精神治療を施すトンデモ理論医師(「ドイツ語がアスピリンのような働きをします(p.61)」などと宣う)が登場する流れから『スノウ・クラッシュ』(ニール・スティーヴンスン)や『虐殺器官』(伊藤計劃)路線の言語SFになるのかと思いきや、ベラミーがルーマニアで殺人事件に巻き込まれてお尋ね者となり、遂には通訳を追うことそっちのけで、人質としたはずの女(これも通訳!)と一緒にボニー&クライドばりに連続強盗を働くようになるという、こちらの予想の斜め上を行く展開で、ストーリーはどんどん妙な方向に転がっていく。
訳者は本作を「言語SFならぬ言語ミステリ」と評しているが、ラストで明らかにされる真相はかなり唐突な印象で、正直、「ミステリ」と表現していいものかどうか少々迷うところだ。ここはあえてジャンル云々は考えず、一本の小説として、陰鬱でありながらも美しい描写を楽しむ方がいいのかも知れない。
本作の読みどころは、多言語話者についての考え方だろう。英語もおぼつかない身からすれば、バイリンガル、マルチリンガルの人には羨ましさしか感じないのだが、べラミーは非常に否定的だ。
どんな人間であろうと、たくさんの外国語をわけへだてなくしゃべる能力があるはずがない。あえてそんなことをするのは不健全な行為であり、精神が不安定になるにきまっている(p.13)
と断じ、
言語は歯ブラシと同様、各人が自分の物だけを口に入れるべきである(p.14)
と考えるのだ。ラストの述懐ではこう述べる。
わたし自身が、通訳という風変わりで不健全な人種と関わる仕事を引き受けたことで、危険に身をさらしたとは否定できない。彼らの不安定で不完全なアイデンティティは、つねに人間を汚染してきた、不合理という塵の侵入を受けやすい。(p.257)
これらは、自身が通訳である著者の一流の皮肉とであると同時に、多数の言語が存在するヨーロッパの複雑さを表していると捉えることができるだろう。
マラーニの作品は、本書が本邦初訳になるとのこと。取りを飾る本書と合わせて「言語三部作」を構成する他二作品(未訳)があるということなので、そちらについても、翻訳をお願いしたいところだ。
- ディエゴ・マラーニ、橋本 勝雄
- 東京創元社
- 2415円
書評/ミステリ・サスペンス

2007-12-12(Wed) [長年日記] この日を編集
_ 『君のためなら千回でも』(カーレド・ホッセイニ)
早川書房さんより本が好き!経由で献本して頂いた。早川書房様、感謝致します。
アフガニスタン出身で、アメリカに亡命し、現在、医師として働いている著者のデビュー作が本書。 アーティストハウスパブリッシャーズより2006年に単行本として刊行された『カイト・ランナー』(絶版)を改題し、文庫化したものだ。 個人的には、今年読んだ小説ランキングの中でも断トツNo.1の内容で、本年の締め括りとなるこの時期に、このような作品が読めて、本当に幸せだ。
主人公、アミールが亡父の友人、ラヒム・ハーンから一本の電話を受けたことから物語は始まる。 アフガニスタンから亡命し、現在はアメリカに住むアミールには、消すことのできない罪の意識があった。 ソ連軍侵攻前の平和なアフガニスタンの首都カブールで少年時代を送ったアミールは、事業に成功し、周囲から尊敬を集める父の息子として何不自由のない生活を送っていた。 しかし、彼は、兄弟同然に育った親友の召し使い、ハッサンに突如として襲いかかった暴力を自身の臆病から黙って見過すことしか出来ず、自己嫌悪に陥る。 その自己嫌悪から逃れるため、アミールはハッサンを遠ざけ、遂には卑劣な裏切り行為を働き、ハッサンを追い出してしまったのだ。 そして、ソ連軍侵攻。戦火から逃れるため、アミールと父はアメリカに亡命する。 祖国から遠く離れた地で、家庭を持ち、作家として成功たアミールだったが、ハッサンに対して行なった罪の意識から解放されることはなかった。 そんな彼にかかってきたラヒム・ハーンからの電話──ハッサンへの贖罪のため、アミールはタリバン支配下にあるアフガニスタンに戻ることを決意する。
激動のアフガニスタンの歴史を背景に、贖罪と許しの物語が展開されるのだが、 ラストシーンに託された、終わりのない冬はないという著者のメッセージには思わず感涙してしまった。
アフガニスタン人ならでは視点で物語を紡ぐ著者の筆致も見事だ。アミールが少年時代を過ごした活気に満ちたカブールと、長年続いた戦火により荒廃したカブールの対比も素晴しいし、カブールで子供たちの間で流行したという凧揚げ合戦や、アメリカに住みながらも昔から続く伝統を守ったパストゥーン人コミュニティの生活など、生きと描き出されている。
作中で、アメリカでは映画の結末を話すことは、アメリカでは"ネタばらし"の罪を犯したと非難され、アフガニスタンでは結末こそすべてであり、みんなそれを知りたがるというくだりがあるのだが、実は、私も後者のスタンスで、人から映画の話を聞く時には結末まで聞くし、自分が観た映画を話す時には、つい結末まで言ってしまうということがあり、「それ以上言うな」と制されることもある。「もしかすると、そこらへんの感覚はアフガニスタン人に近いのか」と思うと、なんともおかしかった。
本作は映画化されており、日本でも来年の2月に封切られるとのこと。 ハリウッドが製作した非ハリウッド『君のためなら千回でも』によれば、「物語の力だけでこれだけ観客を惹き付けたスタジオ映画は実に久しぶりではなかろうか」ということなので、ぜひ観に行きたいと思う。
今回は出版前の作品ということで、ゲラを製本したプルーフを献本して頂いた。 以前から「プルーフ」という名前だけは聞いたことがあって、どんなものなのか興味があった。生原稿に近いものを想像していたので、実際に手に取ってみて、思っていたよりも、ずっとしっかりしたもの(それこそ、そのまま書店に並べられるくらい)で、びっくりした。 プルーフで出版前の作品を読むという、ちょっと出版業界に入ったような気分にさせて貰う機会を与えて頂くと同時に 、本作のような素晴しい作品に触れる機会を頂いた早川書房様と本が好き! プロジェクトには、もう一度感謝したい。
本書は上下巻の文庫として、12月19日に発売される。 もし、『カイト・ランナー』が未読の方であれば、イチオシ。 決して後悔はしないはずだ。
君のためなら千回でも(上巻) (ハヤカワepi文庫 ホ 1-1)
早川書房
¥ 693
君のためなら千回でも(下巻) (ハヤカワepi文庫 ホ 1-2)
早川書房
¥ 693
- カーレド・ホッセイニ
- 早川書房
- 693円
書評/海外純文学

2007-12-14(Fri) [長年日記] この日を編集
_ USBメモリ起動のFreeBSDを作ってみた
会社のBフレッツに繋っているFreeBSDルータを近々リプレイスすることになったので、予行練習。
今はCF-IDE変換基盤をかませてCFから起動させていたんだけど、お手軽にUSBメモリから起動したいなと思ったので、Installing FreeBSD on a USB stick, episode IIを参考に作業をしてみた。 手順も簡単なので、特に引っ掛かることなく完了。
ただ、上記サイトのやり方だと、/homeがUSBメモリ上にあるので、/homeでばんばん作業をする必要がある時には、メディアの寿命が心配ということで、/homeもMFSにすることにした。
以下は作業内容。すべてUSBにインストールしたFreeBSDに対して行なう。
- /etc/fstabに下記の内容を追記する。
- md /home mfs rw,-s16M,nosuid,noatime 0 0
- populate-home(この日記の最後に内容は書いた)をインストールする。
- cp populate-home /usr/local/etc/rc.d
- chmod 0555 /usr/local/etc/rc.d/populate-home
- /etc/rc.confに、下記の内容を追記する。
- populate_home_enable="YES"
- 起動時にhomeディレクトリにコピーされるファイルを準備する。
- mkdir -p /etc/home/ユーザ名
- homeディレクトリに置くファイル群(dotファイルとか)をレポジトリからcheckoutするなり、コピーするなりして、手元に用意する。
- cp 上記のファイル /etc/home/ユーザ名
- chown -R ユーザ名 /etc/home/ユーザ名
populate-homeスクリプトの内容は下記の通り。
#!/bin/sh
# PROVIDE: populate_home
# REQUIRE: mountcritremote
# BEFORE: DAEMON
. /etc/rc.subr
populate_home_enable=${populate_home_enable-"NO"}
populate_home_data=${populate_home_data-"/etc/home"}
name="populate_home"
rcvar=`set_rcvar`
stop_cmd=":"
start_cmd="populate_home_start"
populate_home_start()
{
if [ -d ${populate_home_data} ]; then
cd ${populate_home_data}
/usr/bin/find . -print | /usr/bin/cpio -dump --quiet /home
fi
echo '.'
}
load_rc_config "$name"
run_rc_command "$1"
上記の作業で、MFSの/home(容量は16MB)が起動時にmountされ、/etc/homeの内容が/homeにコピーされる。
populate-homeのPROVIDEやREQUIRE、BEFOREあたりはちと自信がないんだけど、とりあえず、手元の環境では動いている。
CFの代わりにUSBメモリを使うメリット・デメリット
メリットはこんな感じか。
- CF-IDE変換基盤が必要ない。
- たぶん、相性などで起動できないUSBメモリはない(CFはTrueIDEモードに対応していることが必要)。
- FreeBSDとUSBさえあれば中身の変更が可能(CFはCFスロットなり、リーダーなりが必要)。
- メガバイトあたりの単価がCFよりUSBメモリの方が安い(たぶん)。
一方、デメリット。
- 最近(3年前以降くらい?)のPCでないと、USBメモリから起動できない。*1
- 延長ケーブルを付けないと出っ張るので、スペース的な問題があるかも。
追記:MFSなのにnoatimeを指定する必要ってあるんだろうか
元ネタ・サイトがそうなっているので、そのままマネしたけど、ちと疑問に思った。
参考
*1 まぁ、CFの場合も普通はCF-IDE変換基盤がないと起動しないので、デメリットとは言えないかも。
_ 日記をAutoPagerize対応にした
やろうやろうと思いつつ放置モードだったのだが、tDiaryをHEADにアップデートしたので、ついでにAutoPagerize対応にしてみた。
と言いつつ、実はkdmsnrさんとこの丸パクリだったり。
plugin/00default.rbだけ、ちょっと変更して、こんな感じにしてみた。
--- plugin/00default.rb.orig Fri Dec 14 18:33:14 2007
+++ plugin/00default.rb Fri Dec 14 18:41:11 2007
@@ -17,7 +17,7 @@
end
def navi_item( link, label, rel = false )
- %Q[<span class="adminmenu"><a href="#{link}"#{rel ? " rel=\"nofollow\"" : ''}>#{label}</a></span>\n]
+ %Q[<span class="adminmenu"><a href="#{link}"#{rel ? " rel=\"#{rel}\"" : ''}>#{label}</a></span>\n]
end
def navi_user
@@ -48,7 +48,7 @@
def navi_user_latest
result = ''
- result << navi_item( "#{h @index}#{anchor( @conf['ndays.prev'] + '-' + @conf.latest_limit.to_s )}", "«#{navi_prev_ndays}" ) if @conf['ndays.prev'] and not bot?
+ result << navi_item( "#{h @index}#{anchor( @conf['ndays.prev'] + '-' + @conf.latest_limit.to_s )}", "«#{navi_prev_ndays}", "next" ) if @conf['ndays.prev'] and not bot?
result << navi_item( h(@index), h(navi_latest) ) if @cgi.params['date'][0]
result << navi_item( "#{h @index}#{anchor( @conf['ndays.next'] + '-' + @conf.latest_limit.to_s )}", "#{navi_next_ndays}»" ) if @conf['ndays.next'] and not bot?
result
や、navi_itemの第三引数を変えただけだけど。ただ、これだと、navi_itemの第三引数をtrueにしている時には、ちとまずいかも。
00default.rbを書き直した
軽くgrepしてみたら(先にしろよ)第三引数でtrueを使っているところが多いみたいなので、第三引数をtrueにしていたら、問答無用にrel="next"にするようにした。
--- plugin/00default.rb.orig Fri Dec 14 18:33:14 2007
+++ plugin/00default.rb Fri Dec 14 18:52:00 2007
@@ -17,7 +17,7 @@
end
def navi_item( link, label, rel = false )
- %Q[<span class="adminmenu"><a href="#{link}"#{rel ? " rel=\"nofollow\"" : ''}>#{label}</a></span>\n]
+ %Q[<span class="adminmenu"><a href="#{link}"#{rel ? " rel=\"next\"" : ''}>#{label}</a></span>\n]
end
def navi_user
@@ -48,7 +48,7 @@
def navi_user_latest
result = ''
- result << navi_item( "#{h @index}#{anchor( @conf['ndays.prev'] + '-' + @conf.latest_limit.to_s )}", "«#{navi_prev_ndays}" ) if @conf['ndays.prev'] and not bot?
+ result << navi_item( "#{h @index}#{anchor( @conf['ndays.prev'] + '-' + @conf.latest_limit.to_s )}", "«#{navi_prev_ndays}", true ) if @conf['ndays.prev'] and not bot?
result << navi_item( h(@index), h(navi_latest) ) if @cgi.params['date'][0]
result << navi_item( "#{h @index}#{anchor( @conf['ndays.next'] + '-' + @conf.latest_limit.to_s )}", "#{navi_next_ndays}»" ) if @conf['ndays.next'] and not bot?
result
参考
2007-12-15(Sat) [長年日記] この日を編集
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例えばイランという国―8人のイランの人々との出会い(奥 圭三)
9・11直前にイランを旅行した著者による旅行記が本書。
いまだ未解決の日本人学生誘拐事件や核開発疑惑など、なにかとネガティブなイメージが付きまとうイランであるが、ばりばりの親日家ばかりというイラン国民の姿が描き出されていて、興味深い一冊だった。
この手の旅行記では、現地の人々との触れ合いがあると、どうしてもその国に肩入れしてしまう傾向があるのだが(それが日本人の美徳とも言えるのだが)、著者は、イラン革命までアメリカを主とする列強諸国に支配されし続けたがゆえの「アメリカこそ最も大きなテロリズム」というイランの人々の生の声を伝える一方で、イラン政府による圧政も浮き彫りにしていて、なかなかバランス感覚に優れていると言えるのではないかと思う。
著者のユーモア溢れる筆致も読んでいて楽しい。 行き当たりばったり気味の著者の行動には、少しヒヤヒヤしてしまうが、その行動力があるからこそ、魅力的な旅行記が書けるのだろう。紹介される人々の中でも、特に、真面目な態度で、執拗に著者の初体験を聞き出そうとする教師がツボで、思わず吹き出しそうになってしまった。
最近、個人的によく読む佐藤優氏の著作には、日本外交はイランよりもイスラエルに軸を移すべきだ、との提言が多く書かれているが、「日本を尊敬している」というイランの人々の声を知ると、心情的にそれも難しいように思う。 西側諸国の中でもトップクラスと言えるほどイランの人々に信頼されている日本だからこそ出来る外交──例えば、アメリカとの仲介役など──があるのではないか。そんなことを読んでいて思った。
2007-12-16(Sun) [長年日記] この日を編集
_ tDiary-2.2.0に更新
起きたら、tDiary-2.2.0がリリースされていた。ありがとうございます。 & お疲れさまです。 > たださん
脆弱性対策もされているということなので、さっそく更新作業をする。
とはいえ、一昨日、2.1.4のHEADに上げたばかりなので、大きな変更点は皆無。AutoPagerize化するパッチもそのまま当たった。
テーマが大量に追加されたので、テーマを1年くらい使っていたmonochromeからasterisk-lightgrayに変更してみた。初・右サイドバーだ。:-)
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奇妙でセクシーな海の生きものたち(ユージン・カプラン)
インターシフト様より本が好き!経由で献本して頂いた。インターシフト様、感謝致します。
海の生き物たちの驚くべき生態を教えてくれるのが本書。 著者は海洋生物学者で、米ホフストラ大学(Hofstra University)海洋研究所所長を勤める著者のユーモア溢れる語り口で鮮やかに描き出される生物たちの様子が楽しく、一気に読んでしまった。
本書に収録された全31エピソードは、著者が、学生たちの興味を掻き立てるために講義で話したものとのこと。 国は違えど、日本と同じく、アメリカの先生も学生に講義を聞かせるのに苦労している様子が透けて見えて、なんともおかしい。
「ホルモン満載の若い男女の興味を刺激する」という性格上、性にまつわる話が多いのだが、その手の話になると、つい手に取ることを躊躇ってしまう奥手の人も御安心を。 性に関係しない、ビックリ話も多数収められている。
個人的に特に興味深かったのが、アマゾン川流域に住むカンディルの逸話。淡水に住むこのナマズ目の魚は、川に入っている人間の尿道口から侵入し、膀胱の中まで入り込んで、最後には犠牲者を殺す。 著者はカンディルのおぞましい生態について、こう解説している。
魚は膀胱の内部で、ひれのなかの鋭い骨をぴんと立てて周囲にひっかかるようにしながら具合よく落ちつく。そして、膀胱壁をかじっていき、血管に到達すると、満腹になるまで血液を吸っていく。(p.37)
男性については、尿道の構造がカンディルが容易に通り抜けられないようになっているということだが(でも、どうやって取り出すかを考えると……)、女性については、尿道まで入られると膀胱までの行く手に遮るものがないとのことだ。
尿道から膀胱に侵入する魚の話は、遥か昔に『エイリアン魔獣境』(菊池秀行)で読んだ記憶があるのだが、実在していたと知って驚いた。
その他、 猛毒の棘を持ち、最近ではクロコダイル・ハンターこと、スティーヴ・アーウィンを死に至らしめたアカエイ、 原産地であるアフリカよりアメリカに持ち込まれ大繁殖し生態系を脅かしているという日本におけるブラックバスのようなティラピア、 ペットや日本人男性の精力剤*1として乱獲されているタツノオトシゴ、 背中に藻を飼い、そこから光合成で生じたエネルギーを貰って生きているアメフラシの仲間レタス・スラッグ、 日本でも飼育セットが学習雑誌の付録となっているカブトエビ などなど、興味深いエピソードが満載で、 海の生き物に興味がある人はもちろん、興味がない人でも面白く読める一冊と言えるだろう。
なお、本書の訳者は、『フィーチャー・イズ・ワイルド』や『新恐竜』を訳した土屋晶子氏なので、訳の質の面でも安心して読めるのではないかと思う。
- ユージン・カプラン、土屋 晶子
- インターシフト
- 2310円
書評/サイエンス
*1 今でも精力剤として使っている人がいるのか、少し疑問だが。
2007-12-17(Mon) [長年日記] この日を編集
_ http://www.karashi.org/d/でも日記にアクセスできるようにしてみた
日記を立ち上げた時に、なんとなく現在のアドレス(http://www.karashi.org/~poppen/d/)にしたんだけど、どうせ、自分しか使わないので、Aliasでhttp://www.karashi.org/d/でもアクセスできるようにしてみた。
他にもいじらないといけないパラメータありそうだけども。
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動物たちの喜びの王国(ジョナサン・バルコム)
インターシフト様より本が好き!経由で献本して頂いた。インターシフト様、感謝致します。
動物行動学者である著者が、動物たちが持つ「喜び」という感情から、彼らの知られざる姿を描き出しているのが本書。 今年読んだ「動物」本の中では、ベスト級の面白さで、個人的にイチオシしたい一冊だ。
動物に関するドキュメンタリー番組を見たことがあれば、誰しも「過酷な自然」というフレーズを聞いた覚えがあることと思う。著者は、マスメディアが喧伝する、そんな「大自然は残酷で容赦」なく、「野生の動物は厳しいばかりで喜びのない生活を送っている」というステレオタイプなイメージに反論し、動物もまた我々人間と同様、生きることに幸せを感じているということを、様々な事例を挙げながら証明している。
そのいくつかを紹介すると、
- クジラが作る波に乗ってサーフィンを楽しむイルカ、
- 瓶で遊ぶ蛸、
- 飼い主を呼んで階段の手摺りで滑ってみせるインコ、
- 異種でありながら戯れるクマとシベリアンハスキー、
- キスをする鳥たち、
- 手話でジョークを飛ばすゴリラ
などなど。楽しくまた心温まるエピソードが満載だ。
そんな中でも、特に興味深かったのが、動物たちのセックスについて語った章だ。 著者はこの章のはじめに、動物たちが性的な喜びを感じているという話題を不愉快に思う読者は飛ばして次の章に進むように、と注意書きを入れているが、もし、本書を手に取る機会があれば、ぜひ読んで欲しい。 この章を読まなければと、本書を読む価値が半減してしまうと断言してもいいものと思う。 肝心の章の中身は、あまり露骨に書けない内容なので、本書に譲りたいと思うが、同性愛あり、自慰行為あり、他にもまあ色々ありの動物たちの性生活に驚くこと請け合いだ。
ちなみに、本書の中で、遊ぶ動物たちの姿として、電線で遊ぶカラスが紹介されているが、実は私も電線で遊ぶカラスをつい最近、何度か目撃している。
ある日、庭に出て掃除をしていると、ビョンビョンという不思議な音が聴こえてきた。 ふと見てみると、電線の上でカラスが飛び跳ねている。 その音は、彼らが電線を鳴らしている音だったのだ。 それから何回か同じ光景を見たことがあって、その度に単なる偶然だろうと片付けてきたのだが、今にして思えば、あの様子はまるでギターの弦を適当に弾いて遊んでいる子供を彷彿とさせるもので、きっとカラスたちも遊んでいたのだろう。
プロローグで、著者は本書で用いられる用語について、このように述べている。
わたしは特定の動物をそれぞれ「him(彼)」「her(彼女)」と呼び、従来の「it(それ)」では呼んでいない。「それ」と言ってしまうと、動物を単なる物体におとしめることになるからだ。(p.9)
上記と関連して、著者は学界に流布する「動物が心や意識などはもっていない」という考え方を批判しているのだが、このような考え方の根本には、欧米の共通文化であるキリスト教的なものがあるのではないだろうか。 欧米人と比較して、日本人は、動物についての感情移入の度合いが強く、itではなく、heやsheと考えることの方が多いと思われるため、本書で提示される、動物たちに幸せを感じさせる動物愛護という著者の考え方には、抵抗感を覚えることなく、すんなり理解できるだろう。
なお、本書の訳者は『奇妙でセクシーな海の生きものたち』(正確には本書の方が先の出版なのだが)と同じく、『フィーチャー・イズ・ワイルド』や『新恐竜』を訳した土屋晶子氏とのことなので、『海の生きものたち』と同様、訳の質の面でも安心して読めるものと思う。
- ジョナサン・バルコム、土屋 晶子
- インターシフト
- 2415円
書評/サイエンス
2007-12-19(Wed) [長年日記] この日を編集
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移動都市 (創元SF文庫)(フィリップ・リーヴ)
SF者には言わずと知れた、今年の星雲賞作。
読もう読もうと思いつつ、今まで手に取る機会がなかったのが、続篇『掠奪都市の黄金』を本が好き!経由で献本して頂いたので、慌てて発注。実際に読んでみたら、評判に違わないデキで一気に読んでしまった。
最終戦争で荒野と化した大地を、「都市ダーウィニズム」理論に従い、エンジンとキャタピラを持った都市が爆走し食いあうという、ぶっ飛んだ設定がなんともイカス。
そんなポスト・ホロコーストな世界で展開される少年少女の冒険がテーマなのだが、ジュブナイルものにもかかわらず、ストーリーは甘々とはほど遠い、登場人物がばしばし死ぬハード路線。 ロンドンのディストピアな描写もいいし(人糞から生成したおつまみもあり)、 ターミネーターを彷彿とさせる無敵ぶりで主人公たちを執拗に追う半機械人間(シュライクという名前は『ハイペリオン』からか?)も登場して、年代問わず楽しめる内容となっている。
カバーイラストに描かれたヒロイン、ヘクター(だよね?)の顔が傷なしのが、ちょっと気になるが、本文そのままを画にすると、ホラーぽくなってしまうから仕方ないかも知れない。
ということで、次は『掠奪都市の黄金』を読みますよ。
- フィリップ・リーヴ、安野 玲
- 東京創元社
- 987円
書評/SF&ファンタジー
2007-12-20(Thu) [長年日記] この日を編集
_ 第28回日本SF大賞について
佐藤亜紀氏のblogに「言語SF云々」という話が書いてあって、文脈的に『虐殺器官』のことなんだろうなぁ、俺も『虐殺器官』を言語SFって書いちゃったなあ、とか思っていたら、リンクされていて、ちょっと笑った。
「賞」というのには、ほとんど興味がなくて、日本SF大賞のノミネート作品も今まで知らなかったんだけど、下記の作品とのこと。
- 『失われた町』(三崎亜記)
- 『虐殺器官』(伊藤計劃)
- 『Self-Reference ENGINE』(円城塔)
- 『星新一 一〇〇一話をつくった人』(最相葉月)
- 『ラギッド・ガール──廃園の天使〈2〉』(飛浩隆)
『失われた町』以外は読んだんだけど、個人的なランキングは
- 『ラギッド・ガール』
- 『虐殺器官』
- 『星新一 一〇〇一話をつくった人』
- 『Self-Reference ENGINE』
かなぁ。
ちなみに『虐殺器官』については言語SFと書いたけど、それよりもポスト9・11 + グローバリゼーションの悪夢的な世界をリアリティを持った存在として構築したところが凄いなあ、と思っているのが俺の本心だったり。
と、まぁ、それだけなんだけどね。
ラギッド・ガール―廃園の天使〈2〉 (ハヤカワSFシリーズ―Jコレクション)
早川書房
¥ 1,680
2007-12-21(Fri) [長年日記] この日を編集
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掠奪都市の黄金 (創元SF文庫 リ 1-2)(フィリップ・リーヴ)
東京創元社様より本が好き!経由で献本して頂いた。東京創元社様、感謝致します。
六十分戦争により文明が荒廃した大地をエンジンとキャタピラを持つ都市が走り回り共食いをするという、ぶっ飛んだ世界で繰り広げられる冒険SF第二弾。
今年の星雲賞受賞作である前作『移動都市』(読書感想はこちら)も面白かったが、本書はそれを上回る面白さ。
前作から続く奇妙な世界設定、 ジェットコースターばりに繰り広げられる冒険活劇とどんでん返し、 そして、希望溢れるラスト(奥手に見えてトムもやるなと思ったのは私だけではあるまい)と、 文句のつけようのない傑作冒険SFに仕上がっている。 これだけデキがいいと、もしかすると、『移動都市』と本作で、二年連続の星雲賞受賞なんてこともあるかも知れない。
本書の登場人物では、なんといってもヒロイン、ヘスターがいい。 『移動都市』から2年あまりが経過して、恋人となったトムと共にアン・ファンの遺品である飛行船『ジェニー・ハニヴァー』号を受け継いて、飛行船乗りとして平穏な日々を送っているのだが、自分の容姿へのコンプレックスは消えず、常にトムが自分のもとを去るのではないかと恐怖を抱いている。 二人は騒動に巻き込まれ、ヘスターはその過程で嫉妬の炎をめらめらと燃やすことなるのだが、その姿がなんともかわいらしいと同時に、いじらしく、本書の読みどころのひとつとなっている (まぁ、持ち前の激しい性格から、その嫉妬がとんでもない事態を引き起こすことになるのだが、そこはご愛嬌)。
本書のもうひとつの読みどころは、各所にちりばめられた歴史に関するユーモアの数々だ。 歴史家ペニーロイヤルが開陳するアメリカ大陸の歴史(アメリカ大陸を発見したのはコロンブスならぬ、刑事コロンボだそうだ)や、 掠奪都市『アルハンゲリスク』の守り神(「鉄の女」と呼ばれた元英国首相サッチャー*1)などなど、 思わずニヤリとしてしまうものがばかりだ。 残念ながら、隠されたジョークの一部しか見付けられなかったのだが、歴史への造詣が深い人ならば、もっと楽しめるのではないかと思う。
本シリーズは四部作ということだが、つづく第三弾は本書から一六年後が舞台とのこと。 移動都市、反移動都市同盟、そして反移動都市同盟の過激派『グリーンストーム』の三つ巴の闘争はどうなるのか? トムとヘスターのその後は? と興味が尽きない。
つづきが楽しみなシリーズだ。
- フィリップ・リーヴ、安野 玲
- 東京創元社
- 1134円
書評/SF&ファンタジー
*1 だと思ったのだが、違っていたら申し訳ない。
2007-12-22(Sat) [長年日記] この日を編集
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THE BIG YEAR 小鳥たちと男たちの狂想曲(マーク オブマシック)
日常生活を捨て、1年間に渡り、北米──正確には「メキシコ国境以北のアメリカ合衆国およびカナダ、それに海岸から320キロの海域」(p.101)──を駆け回り、見付けた鳥の種数をただひたすら数え、その総数(自己申告)を競い合う。
バード・ウォッチャー(本書ではバーダー──探鳥家と呼ばれている)ならぬ身には冗談にしか思えないが、アメリカでは実際に存在する競技らしい。
「ザ・ビッグイヤー」と呼ばれるその競技の中でも、「近年まれにみる大レースであり、おそらくは最悪のレースとなった」(p.20)1998年北米ビックイヤー探鳥コンテンストについてのノンフィクションが本書。
読んでみたらメチャクチャ面白くて一気読み。 鳥(時によっては1羽)を見るためだけに、外洋航海の船で盛大に吐きつつ双眼鏡を握るわ、荒れ狂う天候のアッツ島*1に悪性の伝染病に罹りつつ5週間も滞在するわ、冬の悪天候のロッキー山脈に命懸けでヘリコプターを飛ばすわで、金と時間を遣い方が物凄い。こいつら本当にイカレてますよ(注:誉め言葉)。
98年度ビッグイヤー優勝者候補は下記の三人。
- 97年度のビッグイヤー優勝者であり、史上初の二冠を狙うサンディ・コミト
- 大企業重役から引退したばかりのアル・レヴァンティン
- 原子炉制御ソフトのプログラマであり、Y2K(1998年であることをお忘れなく!)対策の修正コードをフルタイムで書きつつ、鳥を追うグレッグ・ミラー
勝つのはどいつだ? 実際に手に取って確かめてください。
ちなみに、笑える他にも、『Birds of America』で出版して鳥類画家として一躍有名になったオーデュボンが、実は1枚の絵を画くために何十羽もの鳥を撃ち落とし、その中でもきれいなものを選んで、死骸にワイヤを通して形を整えたものを画いた、なんて話も書かれていてタメになる一冊でもありました。オススメ。
*1 太平洋戦争時に日本軍が占領した島。
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探偵、暁に走る (ハヤカワ・ミステリワールド)(東 直己)
地下鉄で乗客とトラブルになりかけていたところをとりなしたのがきっかけで、〈俺〉はイラストレイタ―の近藤と飲み友だちになった。その近藤が、深夜のさびれかけた商店街で何者かに刺されて死んだ。彼は誰に、なぜ殺されたのか? 友の無念を晴らすべく、〈俺〉は一人で調査を開始する。やがて事件の背後に、振り込め詐欺グループ、得体の知れぬ産廃業者らの存在が……札幌の街を、孤高の〈ススキノ探偵〉がいく。 ──探偵、暁に走る:ハヤカワ・オンラインより
ススキノ便利屋シリーズ最新刊。
512ページという長篇だが、めちゃくちゃ面白く、夜更しして読んでしまった。おかげで今日は眠いのだが、著者のぐいぐい読ませる筆力は流石だなぁと感心した次第。
先月読んだ『挑発者』は、詰め込みすぎの感があって消化不良気味だったのだが、本書では、ストーリー展開が「友人を殺した犯人を追う」というシンプルな軸に絞られていて、スッキリ。
松尾や高田、桐原、相田といったお馴染の顔触れの他に、『ライト・グッバイ』に登場した、イタリヤ料理店オーナーの華(〈俺〉の恋人になってる!)や元陸自レンジャーで現ニューハーフのアンジェラ、『駆けてきた少女』のハッカーの金沢や気功師(?)の濱谷のおばちゃんなどなど、これまでに登場した面々も出てきて、非常に楽しめた。
東直己作品はこれが初めて、という人にはちょっとオススメできかねるが、東ファンであれば間違いなく面白い一冊。
榊原健三シリーズで語られた話が作中でちょろっと出てきたので思ったのだが、畝原と榊原のクロスオーバーなんて作品はどうだろう。まあ、両名ともお世辞にも明るいとは言い難い性格なので、全体的に暗い雰囲気になりそうだけども。
2007-12-24(Mon) [長年日記] この日を編集
_ ここ数日、自宅のBフレッツが絶不調だった
土曜日の午後あたりからBフレッツが絶不調で、
- Web閲覧がほとんどできない(ほとんどのWebページでタイムアウトしてしまう)。
- Gmailも読めない。
- twitterにも接続できない。
- 日記も書けない。
- 会社にSSHできない。
- 書きかけのコードがcheckoutできず、仕事ができない。
- 仕事メールも読めない。
と散々だった。まぁ、いちおう、WILLCOMである程度のことはできたけど、つなぎ放題[2x]では遅すぎて、快適にはほど遠い状態。
土曜日は「まぁ、明日には直ってるんじゃね」と軽い気持ちだったのだが、 日曜日(昨日)の午後に仕事から戻ってきても*1同じ調子なので、色々いじってみた。
やったこととその結果を列挙しておくと、
- NTT東からレンタルしている、ルータ(PR-200NE)の故障を疑って、PCから直接PPPoEをしてみた。→ 改善せず。
- プロバイダのDNS故障を疑って、nslookupしてみる。→ 問題なし。
- プロバイダとフレッツ側のどちらに問題があるか切り分けるために、フレッツスクウェアで速度測定をしてみる。→ 問題なし(ちなみに60Mbpsくらい)。
- tracerouteしてみる。→ 問題なさげ。
- pingを打ってみる。→ 問題なさげ。
ここまでやって、あとはパケットキャプチャしてみるしかないかなーというところだったのだが、自分で苦労する前に、とりあえず、プロバイダのサポートにTELを入れてみることにした(フレッツ網の方は問題なさそう感じがするので)。
サポートのお姉さんと「セキュリティソフトは入れてませんか?」、「アドレスを入れてみてください。ホームページは見えますか?」、「じゃ、IPアドレスを入れてみてください。ホームページは見えますか?」といったなんやかんやの遣り取りをして、結局、原因が特定できず、調査をするということになって、昨日は終了。
で、今朝になってPCを立ち上げてみるも、やっぱり同じ状況。困ったなぁと思いつつ、予約を入れていた車の整備のため、朝飯を食べて出掛けた。
その後、昼過ぎに帰宅して、再度試してみたところ、ちゃんと動く! WebもSSHもバッチリ。プロバイダから何の連絡もないが、なにかしてくれたんじゃないかと思うのだが、詳細は不明。原因がプロバイダ側にあったのなら連絡くらい欲しいところだが、まあ、いいや。
今回の教訓。
- インターネット回線は、もはや必需品。できれば、予備の回線も用意しておくこと。
- パケットキャプチャのやり方は覚えておけ!
- 問題があった時は、プロバイダに早めに連絡しておけ。
追記
夜になってプロバイダのサポートから「調査しますので、少しお時間をください」というメールが来ていた。
プロバイダが何かしてくれたんじゃないのかも。まあ、連絡の行き違いも考えられるが。
*1 日曜は仕事だった。
_ tDiaryをAutoPagerize化するプラグインを書いてみた
というタイトルを付けてみたが、大したものではない。
こないだのパッチってプラグイン化できるんじゃね、と思い付いて書いただけの習作。メソッドを色々上書きしてしまっているし、ヘッダ、フッタも自分で書いてあげる必要があるし、ということで、かなり恥ずかしい代物になっていますが、まぁ、アウトプットするのが重要ということで、晒しておきます。
http://www.karashi.org/~poppen/files/autopagerize.rb
使う場合の注意。
- ヘッダの最後の方に<div class="autopagerize_page_element">を入れる必要があります( [tDiary] tDiaryでAutoPagerizeを使う - capsctrldays (2007-09-01)に書いてある通り、<div class="main">と合わせて、<div class="main autopagerize_page_element">することをオススメ)。
- フッタのページ区切りとなる場所に、<div class="autopagerize_insert_before"> </div>を入れる必要があります。
- 次ページとして読み込まれる日記は以下の通り。
- 「最新」では過去方向。
- その他(「日」、「月」、「年」単位)では、未来方向。
ヘッダ、フッタについては、プラグインからどうにできるか、あとで調べる。 > TODO
誰か「こんなもん使いものになんねー」と書き直してくれる人がいればいいなー(他力本願)。
2008/1/6追記
2007-12-25(Tue) [長年日記] この日を編集
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カラスヤサトシ (アフタヌーンKC (425))(カラスヤ サトシ)
講談社社様より本が好き!経由で献本して頂いた。講談社様および本が好き!プロジェクトに感謝致します。
クールな男であれば、友人や同僚はもちろんのこと、家族にも知られたくない奇行の一つや二つは持っているものであるが(当然、クールな男を目指す私にもある。書けないが)、 なかなかカミングアウトできない、自身の奇行をネタにしたカラスヤサトシ氏の四コマギャグ漫画集(全279本所収)が本書。 メチャクチャ面白くて、家人に引かれつつ、ぐふぐふ笑いながら読了した。
三十路に入っていながら、ガチャポンの仮○ライダー・フィギュアを一人で対戦させて遊んでいたり、
アダルトビデオの女優が感極まって泣き出すインタビュー・シーンばかりを編集して泣いてみたり、
店のレジでどうお釣りを受け取っていいか分からず、店員の娘の手からむしり取ろうとして叫ばれたり、
子供が生まれた友人に、思わず『命名「ハム太郎」!』というメールを送ってしまい、その失礼さに気付いて慌ててみたり、
隣りの家の飼い犬の日常を観察しながら、自分の方が犬よりもっと暇だと気付いたりみたりと、
作者のダメなクールな男っぷりをたっぷりと堪能させて貰った。
特に作者のクールさが際立っているのが、飲み会の帰りに、密かに好きな女性とタクシーで一緒に帰った時のエピソード。すげーチャンスじゃんというシチュエーションにも関わらず、カラスヤ氏は酒酔いと車酔いでいきなり嘔吐!! 嫌々な態度を表しつつ、仕方なく彼を介抱する彼女に対して、服の前をゲロでベチョベチョにしながら、カラスヤ氏が言い放った男気溢れる一言がコレ!
「大丈夫……吐いてないから!」
超クールすぎて、飛び跳ねたくなりましたよ。イェーイ。 ちなみに、その三日後に彼女に告白したが、見事に玉砕したのこと。カラスヤ氏に幸あれ!
巻末には、作者と担当編集者T田氏との心が寒くなる対談も収録されており、これだけ笑えて590円(税込)という値段は非常に安いのではないかと思う。
笑う門には福来たると言うが、年末に良いものを読まさせて頂いた。 第2巻も発売されているということなので、さっそく購入したいと思う。
なお、カラスヤ氏が民家の門柱脇に立った小さな御幣を気味悪がる四コマがあるのだが、あれは氏神様に一年間の無病息災を祈って、大晦日に立てる御幣だったりする(実は、自宅でもやっていて、うちでは割り箸で作っている)。 気味悪がるような代物ではないので、誰かカラスヤ氏と面識のある方は教えてあげてください。
- カラスヤ サトシ
- 講談社
- 590円
書評/サブカルチャー
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ラヴクラフト全集 別巻下 (9) (創元推理文庫 F ラ 1-9)(H.P.ラヴクラフト)
東京創元社様より本が好き!経由で献本して頂いた。 東京創元社様および本が好き!プロジェクトに感謝致します。
ラヴクラフトが手掛けた添削・補作を収めた『ラヴクラフト全集 別巻』上下二冊のうち下巻が本書(ちなみに、上巻の読書感想はこちら)。
上巻と同様、玉石混淆といった感じは拭えないが、こちらの方が書かれた年代が新しい分、添削・補作をしたラヴクラフトの腕が上がったのか、面白い作品が多かった。
個人的には、青心社の『クトゥルー』シリーズで既読ではあるが、蝋人形館に潜む旧支配者ラーン=テゴスの恐怖を描いた「博物館の恐怖」、『ウルトラマンティガ』にも最後の邪神として登場した旧支配者ガタノトーアのデビュー作「永劫より」の面白さが再確認できたのことが収穫(どちらもH・ヒールド作)。
「アロンゾウ・タイパーの日記」(W・ラムリイ作)についても、「日記なんか書いてないで、どうにか逃げろよ!」とツッコミを入れたくなるラストが「あー、そうそう、こんな感じだった」と懐しく読んだ。
全体的に悪くない印象の一冊なのだが、苦言を呈したいのが、「程度の多少にかかわらず、ラヴクラフトの手の入った」(本書紹介文より)作品を収めると謳っているにも関わらず、紙幅の都合と「改訳する必要のなかった」(p.363)という判断から『憤丘の怪』(ズィーリア・ビショップ)が割愛されているという点。率直に言って、これによって別巻二冊の意義を大きく損なわれていると言わざるを得ない。
巻末に収録されている「作品解題」によれば、訳者は訳語の表記について、慣用表記を「気楽にローマ字読みするという悪習に堪えきれなく」なり、「10年くらいまえから厳格に原音表記に」徹することにしたそうである(p.367)。 作者なりのこだわりがあることについては理解するが、ただ、「シャベル」を「シャヴェル」と表記するのはどうかと個人的には思う(一瞬、意味が分からなかった)。少なくとも、既に日本語に定着しているものについては、訳者のこだわりよりも読み手のリーダビリティを優先するべきではないだろうか。
上記に関連して、表記についても少し。
数々の表記があるCthulhuについて、本書では「クルウルウ」としている。私自身は「どうせ、人間には発音できない名前なので、なんでもいい」というスタンスなので、それ自体には特に異論はないのだが*1、訳者には、前掲の訳語と同様、強いこだわりがあるようだ。 「クリトルリトル」という訳については「クリュトゥルリュトゥル」もしくは単純化して「クリュトルリュトル」が正しいとしているし、「クトゥルフ」や「クスルフ」という表記は「正確な発音を逸脱したもの」と指摘している(p.380)。
前者については、長らく絶版状態にあり最近復刊した『新編真ク・リトル・リトル神話大系』に、後者についてはエンターブレインおよび新紀元社の『クトゥルフ神話TRPG』シリーズに喧嘩を売っているようでおかしかった。
既に、青心社の『クトゥルー』シリーズや国書刊行会の『ク・リトル・リトル神話大系』シリーズで収録作品を読んでいる人にはおすすめしにくい別巻二冊であるが、ラヴクラフト入門者であれば、読む価値がある二冊ではないかと思う。 筋金入りのラヴクラフト・マニアについては……まあ、書くまでもないだろう。
新編真ク・リトル・リトル神話大系 1 (1)
国書刊行会
¥ 1,575










_ kdmsnr [導入しました!]
_ poppen [kdmsnrさん、ありがとうございます! モチベーション上がりまくりました!]