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ぽっぺん日記@karashi.org


2007-12-09(Sun) [長年日記]

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_ 通訳 (海外文学セレクション)(ディエゴ・マラーニ) 通訳 (海外文学セレクション)(ディエゴ・マラーニ)

東京創元社様より本が好き!経由で献本して頂いた。東京創元社様、感謝致します。

EU(ヨーロッパ連合)理事会の通訳・翻訳官であり、人工言語「ユーロパント」の考案者でもあるディエゴ・マラーニによる小説第三作が本書。地続きの中に多数の言語が渦巻くヨーロッパという地を感じさせる、言語幻想小説とでも言うべき一冊だ。

本書の主人公は、ジュネーブの国際機関で通訳サービスの責任者を務める中年男、フェリックス・ベラミー。彼は、監督下にある通訳が同時通訳中に、どの言語でもない言葉を発するという異常行動を取っているとの報告を受ける。十五カ国語を操る問題の通訳は未知の言語を発見したと主張し、ベラミーにつきまとうが解雇され失踪する。しかし、通訳の持つ言語学的な狂気は伝染性のものだった。通訳より伝染させられた狂気により家庭も仕事も失ったベラミーは、通訳を追い全欧を放浪する。

薬のように、症状に応じて外国語学習を処方し精神治療を施すトンデモ理論医師(「ドイツ語がアスピリンのような働きをします(p.61)」などと宣う)が登場する流れから『スノウ・クラッシュ』(ニール・スティーヴンスン)や『虐殺器官』(伊藤計劃)路線の言語SFになるのかと思いきや、ベラミーがルーマニアで殺人事件に巻き込まれてお尋ね者となり、遂には通訳を追うことそっちのけで、人質としたはずの女(これも通訳!)と一緒にボニー&クライドばりに連続強盗を働くようになるという、こちらの予想の斜め上を行く展開で、ストーリーはどんどん妙な方向に転がっていく。

訳者は本作を「言語SFならぬ言語ミステリ」と評しているが、ラストで明らかにされる真相はかなり唐突な印象で、正直、「ミステリ」と表現していいものかどうか少々迷うところだ。ここはあえてジャンル云々は考えず、一本の小説として、陰鬱でありながらも美しい描写を楽しむ方がいいのかも知れない。

本作の読みどころは、多言語話者についての考え方だろう。英語もおぼつかない身からすれば、バイリンガル、マルチリンガルの人には羨ましさしか感じないのだが、べラミーは非常に否定的だ。

どんな人間であろうと、たくさんの外国語をわけへだてなくしゃべる能力があるはずがない。あえてそんなことをするのは不健全な行為であり、精神が不安定になるにきまっている(p.13)

と断じ、

言語は歯ブラシと同様、各人が自分の物だけを口に入れるべきである(p.14)

と考えるのだ。ラストの述懐ではこう述べる。

わたし自身が、通訳という風変わりで不健全な人種と関わる仕事を引き受けたことで、危険に身をさらしたとは否定できない。彼らの不安定で不完全なアイデンティティは、つねに人間を汚染してきた、不合理という塵の侵入を受けやすい。(p.257)

これらは、自身が通訳である著者の一流の皮肉とであると同時に、多数の言語が存在するヨーロッパの複雑さを表していると捉えることができるだろう。

マラーニの作品は、本書が本邦初訳になるとのこと。取りを飾る本書と合わせて「言語三部作」を構成する他二作品(未訳)があるということなので、そちらについても、翻訳をお願いしたいところだ。


通訳

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書評/ミステリ・サスペンス

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