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ぽっぺん日記@karashi.org


2008-01-27(Sun) [長年日記]

_ 人類の議会 上―国際連合をめぐる大国の攻防 (1)(ポール・ケネディ) 人類の議会 上―国際連合をめぐる大国の攻防 (1)(ポール・ケネディ)

ベストセラー『大国の興亡』を著した歴史学者ポール・ケネディが国連の過去・現在・未来を考察した研究書。

いかにも固そうな表紙とタイトルから読み切れるかどうか心配だったのだが、実際に読み始めたら全くの杞憂。 国連についての知識が薄い読み手でも理解できる語り口で、国連の60年余に渡る歴史を解説し、国連が抱える問題点のみならず、その将来のあるべき姿までをも浮き彫りにしている書だ。 今後、国連を語る上で欠かすことができない一冊になるだろう。

本書を読んで驚かされるのが、国連が理想と現実の妥協の産物であるということだ。 それが如実に表われているのが、常任理事国とそれが持つ拒否権の存在である。

国連の前身というべき国際連盟は、世界平和を目指して創立された。 しかし、あまりに理想主義に傾きすぎ、欠かすことのできないメンバーだったはずのアメリカが加盟せず、また利害が対立した際に日独が脱退し、第二次世界大戦の勃発を防ぐことができなかった。 それどころか、大戦終結に際してさえなんら影響を及ぼすことができなかったのである。 国連の創設に尽力した外交官たちは、世界に平和をもたすためには、国際連盟と同じ轍を踏むことを避けなければならないと考えた。 たとえ、加盟国間の「平等」を実現できないとしても、大国を国連に留まり続けさせる必要を痛感していたのだ。 その理想と現実の結果として生まれたものが、大国を国連に繋ぎとめるべく作られた常任理事国という「特権階級」と拒否権という「伝家の宝刀」なのである。

軍事面から見て興味深かった記述も多い。 そのひとつが、安全保障理事会に軍事的な助言を与え、軍事面での責任を持つ軍事参謀委員会(各国の参謀総長クラスの軍人によって構成される)が規定されていることだ。 ほとんどの人がその名前を聞いたことがないのではないかと思われるが、それもそのはず、実際には、冷戦期における米ソの対立により軍事参謀委員会は有名無実となり、現在も存在だけはするが

定例会議は開かれるものの、議題はない。(上巻 p.81)

という状況にあるそうである。

また、国連が平和維持活動のために使用する軍事力として、空軍力を重視していたことも、航空戦力が主力となった第二次世界大戦後の世界観を表わしていて興味深い。 事実、国連憲章第45条にはこう書かれている。

加盟国は、合同の国際的強制行動のため国内空軍割当部隊を直ちに利用に供されることができるように保持しなければならない。(下巻 p.246)

現実はこの通り進んでいないようであるが。

著者は本書全体を通じて、国連が犯してきた数々の失敗や現在も抱える問題を指摘している。例を挙げれば以下のようなものだ。

  • 安全保障理事会の権限が国連総会に比べて大きすぎ、常任理事国の利害対立が要因となってカンボジアでの虐殺など、様々な悲劇を座して見すごすこととなった。
  • 冷戦崩壊後に内戦や民族紛争が劇的に増加したことにより、平和維持活動に兵力や資金を提供していた大国が「援助疲れ」を起こしはじめ、それらの提供を渋るようになった。
  • 目的が重なる諸機関*1が乱立し、官僚組織にありがちな非効率化を招いている。

では、国連は失敗だったのだろうか? その問いに、著者は断じて否と答える。 数々の欠点があり、また改善の余地は大いにあろうとも、国連は国際秩序を保つための枠組みを作り、地球上の女性や子供を守るため機関を設立し、人権を世界に広め、地球環境を保護する努力を進めてきたのだ。国連を批判し、新たな国際機関を創設するべきだという声に、著者は熱く反論する。

現にそれは存在する。それは世界各国の政府と、はるかに距離は遠いものの、その国民に属している。人類がそれを創設し、受け継いできたのである。(下巻 p.220)

著者が本書の第三部で敷衍する「地に足が着いた理想主義」とでも言うべき、国連改革案は一読の価値がある。 提言のひとつとしては、前掲の軍事参謀委員会の権限を復活させ、平和維持活動の効率化を図ることが述べられている。

本書のタイトルは英詩人アレフレッド・テニスンが書いた「ロックスレー・ホール」から取られている。 テニスンは、1837年に書いたこの詩で、戦略爆撃と相互破壊の時代が到来することを予見し、その後に世界平和を実現するための国家を越えた国際機関、「人類の議会」の設立を予測した。 国連が真の「人類の議会」になるための道程はまだ遠く、そこに至る近道もない。 ただ着実な一歩一歩を踏みしめながら前進するしかないのだ。

人類が直面している厳しい現実を教えてくれるとともに、明るい未来の可能性もまた感じさせてくれる良書である。

人類の議会 上―国際連合をめぐる大国の攻防 (1) 人類の議会 上―国際連合をめぐる大国の攻防 (1)
ポール・ケネディ
日本経済新聞出版社
¥ 1,890

人類の議会―国際連合をめぐる大国の攻防 (下) 人類の議会―国際連合をめぐる大国の攻防 (下)
古賀林 幸/ポール・ケネディ
日本経済新聞出版社
¥ 1,890

*1 略字だらけなため「アルファベット・スープ」とも呼ばれる。

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