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ぽっぺん日記@karashi.org


2008-02-21(Thu) [長年日記]

_ 狡猾なる死神よ (創元推理文庫 M テ 8-1)(サラ・スチュアート・テイラー/野口 百合子) 狡猾なる死神よ (創元推理文庫 M テ 8-1)(サラ・スチュアート・テイラー/野口 百合子)

東京創元社様より本が好き!経由で献本御礼。

著者サラ・スチュアート・テイラーのデビュー作にして、美術史家スウィニー・セント・ジョーンズを主人公とするミステリーシリーズ開幕篇が本書。

かつて芸術家たちが集い生活を共にした芸術村を舞台に、約100年前と現代に起きた2つの事件の真相を追うミステリーなのだが、著者自身が芸術村で過ごした経験を持つというだけあって、村の歴史とその雰囲気を堪能できる一冊だ。

本書の主人公はハーバード大学の芸術・建築史学科で助教授 *1 を勤めるスウィニー・セント・ジョーンズ。28歳という若さながら、スウィニーは専門の墓石研究で成功を収めた研究者である。しかし、実はそれは彼女自身の孤独を埋めるため、生活を犠牲にした結果だった。 冬季休暇も直前のある日、スウィニーは数少ない友人トビーより風変わりな墓石の写真を見せられる。 それはまるで生きているような若き女性と死神の彫刻だった。 19世紀末に作られたというその作者不詳の像は、しかし、当時の様式とは明らかに異なる作風だった。 興味を引かれたスウィニーは、墓石がある芸術村ビザンティウムに、調査とクリスマス休暇を兼ねてトビーと共に訪れることを決める。 折りしも、ビザンティウムでは、墓石の下に眠る女性の血縁にある老女が謎の死を遂げていた。 約100年前にこの世を去った娘はなぜ死んだのか? 老女の死はそれを隠そうとする者の手によるものなのか? スウィニーは事件の真相を追いはじめる──。

本書の魅力は、なんといっても芸術家村という舞台設定と、ストーリーの各所に散りばめられたラファエル前派、ロセッティ、キーツ、ミレー、アーサー王伝説といった芸術に関係するピースの数々だろう。 正直なところ、芸術に関しては水溜りのごとく浅い知識しか持っていない ──なにしろ、詩人キースの名はダン・シモンズのSF『ハイペリオン』を読んで知ったくらいだ──ため、頭の中が「?」だらけになってしまったのだが、造詣が深く、こういったキーワードにぴんとくる読み手であれば、非常に楽しめるはずだ(もちろん、芸術の知識がないと楽しめないという訳ではないので、念の為)。

ミステリー面もなかなか良い。 100年前に起きた事件の真相を探るため、当時の新聞や日記を調査し絡まった糸を解きほぐしていく過程は個人的に好みだし、陸の孤島キタコレという、ありがちな状況もストーリーを盛り上げてくれる。

ただし、欠点がない訳ではない。 まず、なにより登場人物が多すぎる。芸術家村という存在にリアリティを持たせるため、ある程度の数の住人を登場させなければならないことは理解できるのだが、そこに100年前の住人たちまで絡んできてしまうので、人物たちの関係を把握するのに骨が折れる。 巻頭の登場人物紹介ページの人数だけで27人と書けば、その多さが分かって頂けるだろうか。ここはもう少し整理して欲しかったところだ。

さらに、それまで良い雰囲気で進んできた調査も真相が明らかになるにつれて徐々に尻すぼみになってしまう展開や、犯人が露見するのがかなり間抜け理由だったりする点にも拍子抜けしてしまう。

とは言え、著者にとって、本書はデビュー作。 処女作でここまでのクオリティの作品を仕上げるという力量は素直に評価したい。

訳者あとがきによれば、スウィニー・シリーズは、アメリカでは現在までに4冊上梓されているとのこと。 著者がどのように腕を上げていっているのか。 続くシリーズでそれを確かめられる日が来ることを楽しみに待ちたい。


狡猾なる死神よ

  • サラ・スチュアート・テイラー、野口 百合子
  • 東京創元社
  • 1029円
Amazonで購入
書評/ミステリ・サスペンス

*1 最近は「準教授」と言うんだっけ?

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