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ぽっぺん日記@karashi.org


2008-03-03(Mon) [長年日記]

_ 名作は色褪せず ── 検死審問―インクエスト (創元推理文庫 M ワ 1-1)(パーシヴァル・ワイルド) 検死審問―インクエスト (創元推理文庫 M ワ 1-1)(パーシヴァル・ワイルド)

東京創元社様より本が好き!経由で献本御礼。

劇作家パーシヴァル・ワイルドによるミステリー長篇が本書。溢れるユーモアと機知が楽しめる傑作だ。

原著は1940年に書かれ、それを読んだ江戸川乱歩が絶賛。「1935年以後のベスト・テン」の一作として本作を挙げている。それを受けて、1950年代には日本でも『検屍裁判』のタイトルで邦訳が3冊出版されたのだが、その後は長らく絶版状態にあった。復刊を望むファンの熱い声に応えて、翻訳も新たに出版されたのが本書なのだ。

タイトルにもなっている検死審問であるが、実際にアメリカに存在する司法制度とのこと。巻末の解説から引けば、「法に照らし合わせて罪の有無を決める場」ではなく、「あくまでも死因を法的に確定させるためのもの」だそうである。 さらに、本書の中で書かれていた内容も加味するならば、「裁判に提出する死因に関する参考意見を作成する場」とも言っていいかも知れない(法律に関してはド素人なので間違っているかも。念の為)。

本書のストーリーは、検死官リー・スローカム閣下と招集された検死陪審員6人による検死審問が開廷されたところからはじまる。 しかし、検死陪審員には殺人が起きたのかどころか、死亡したのが誰かさえ知らされておらず、死体すらない、なんとも不思議な検死審問なのだ。

当然、読者も訳が分からないまま、読み進めていくのであるが、証人による発言や供述書の朗読、検死官の発言により、徐々に事件の詳細が浮き彫りにされていく。 このストーリー展開は秀逸だ。 ネタバレになってしまうので詳しくは書けないが、実際に読んで堪能して頂きたい。

ストーリー展開が本書の読みどころであるならば、もうひとつの読みどころは、溢れるユーモアの数々だ。

まず、検死官のスローカムからして脱力系。 やたらと審議を引き延ばそうとするのだが、その理由というのも、検死陪審員には3ドルの日当、検死官には1ページの証言を聴取するごとに25セントが支給されるからというもの。 さらには、速記者にしてスローカムの娘が1ページを書き上げるまたは読み上げるごとに、10セントの手当が貰えるからという理由も挙げていて、公私混同も甚だしく笑ってしまう。

スローカムの異例づくめの審問進行に、ただひとり生真面目な陪審員イングリスが異を唱えるのだが、それに対する検死官の答えもおかしい。

法律では、わたしはなんでも好きにしていいとされている。

ちなみにこれは本当のことで、検死官は検死審判についてはどんなことも許される絶大な権力を持っていたとのこと。

ストーリー全体のかなりの部分を占める会話文もユーモラスだ。 たとえば、証人のひとりとの会話はこんな感じである。

証人 本人に会わせてくれ! あの男はどうなったんだ?

検死官 あててごらんなさい。

証人 あの男は──死んだのか?

検死官 一発であてましたね。

読んでいて思わず吹き出しそうになってしまった。

原著の出版から既に半世紀以上が過ぎているが、時代背景の古さ等がありながらも、本書の魅力は些かも衰えていない。「名作は色褪せない」。そんな言葉を実感させてくれる名著である。

なお、巻末の解説によれば、ワイルドによって、検死官リー・スローカムが登場する検死審問ものがもう一冊書かれており、そちらの邦訳も刊行予定とのこと。 こちらではイングリスが陪審員長に昇格し、大真面目に迷走しまくるストーリーということなので、今から出版が楽しみだ。


検死審問―インクエスト

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書評/ミステリ・サスペンス

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