ぽっぺん日記@karashi.org
2008-04-24(Thu) [長年日記]
_ 一度味わえば中毒になるかも──
ナイフ投げ師(スティーヴン・ミルハウザー)
スティーヴン・ミルハウザーの第三短篇集が本書。
実はミルハウザーの作品を読むのは今回が初めてだったのだが、多少の違いはあれ、不安感を掻き立てられる作品ばかりでなんとも奇妙な読後感。
訳者である柴田元幸氏が
ミルハウザーを好きになることは、吸血鬼に噛まれることに似ていて、いったんその魔法に感染してしまったら、健康を取り戻すことは不可能に近い(p.277)
とその中毒性を評しているけど、たしかにこの不安感は中毒になりそうだ。 「どうして不安に思ったんだ?」と疑問に思い、また再読してしまうというか。
かさぶたを剥がして傷口を見てしまう心理に近いかも知れない。
本書に収録されている作品は下記の12篇。
- 「ナイフ投げ師」
- 「ある訪問」
- 「夜の姉妹団」
- 「出口」
- 「空飛ぶ絨毯」
- 「新自動人形劇場」
- 「月の光」
- 「協会の夢」
- 「気球飛行、一八七〇年」
- 「パラダイス・パーク」
- 「カスパー・ハウザーは語る」
- 「私たちの町の地下室の下」
ある町を訪れたナイフ投げ師の徐々に危険度を増していく興行と、恥じつつもそれに魅せられていく観客たちを絶妙な筆致で描いた表題作は傑作だが、 夜な夜な森に集う少女たちへの不安に満ちた大人たちの眼差し「夜の姉妹団」や夜中に目覚め町へ彷徨い出した少年と少女たちの交流「月の光」、天才自動人形職人の先鋭化のあまり突き抜けてしまった技巧を描く「新自動人形劇場」も素晴しいデキ。
「協会の夢」の主役である、謎の協会に買収され、日々、拡大と変化しつづける一大エンターテイメントの場と化した百貨店と、地下へと広がり徐々に淫靡さを増していく「パラダイス・パーク」登場のパラダイス・パークは、ひとつのテーマの裏表を描いた、いわば姉妹篇とでもいうべきもので、かなり気に入った作品。 ちなみに、どちらにも詳細なミニチュアが登場するのだが、著者が気に入っているモチーフのような気がする(ホントかどうかは知らんけど)。
楽しく読める本かといえば、首を捻ってしまうが、一度味わってみる価値のある一冊ではないかと思う。気に入るかどうかは読み手次第だけども。


まで頂ければ幸いです。
観音浄土に船出した人びと―熊野と補陀落渡海 (歴史文化ライブラリー 250)(根井 浄)