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ぽっぺん日記@karashi.org


2008-04-25(Fri) [長年日記] この日を編集

_ 大人しい一般人の仮面の裏に隠された暴力性を暴き出す戯曲──21世紀を憂える戯曲集(野田 秀樹) 21世紀を憂える戯曲集(野田 秀樹)

野田秀樹が手掛け、最近上演された戯曲を収めたものが本書。

本書には三本の戯曲が収録されているが、 太平洋戦争とイラク戦争をオーバーラップさせアメリカの正義を問い掛ける「オイル」については「石油を欲して戦争を引き起こすアメリカ」という図式がどうにも単純すぎるように感じられたし、 プロレスとミライ村虐殺事件を重ねた「ロープ」についても、その意義が掴めず(戦争の劇場化などの問題提起がされていると思うのだが)今一つピンとこなかったというのが正直な感想だ。

ただ、残る「THE BEE」については、掛け値なしにスゴイ作品だと思った。 自宅に立て籠った脱獄犯に妻と子を人質に取られた会社員が、報復として犯人の妻子を人質にして立て籠るというのが骨子なのだが、ごくごく平凡な人間だったはずの会社員が脱獄犯よりも暴力性を加速させ、冷徹に人質の子供の指を切断し、その妻をレイプするという凄まじい展開になる。

大人しい一般人の仮面の裏に隠された暴力性を暴き出し、我々が持つ倫理観を揺さぶってくる問題作といえるだろう。

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2008-04-24(Thu) [長年日記] この日を編集

雨時々曇

_ 一度味わえば中毒になるかも──ナイフ投げ師(スティーヴン・ミルハウザー) ナイフ投げ師(スティーヴン・ミルハウザー)

スティーヴン・ミルハウザーの第三短篇集が本書。

実はミルハウザーの作品を読むのは今回が初めてだったのだが、多少の違いはあれ、不安感を掻き立てられる作品ばかりでなんとも奇妙な読後感。

訳者である柴田元幸氏が

ミルハウザーを好きになることは、吸血鬼に噛まれることに似ていて、いったんその魔法に感染してしまったら、健康を取り戻すことは不可能に近い(p.277)

とその中毒性を評しているけど、たしかにこの不安感は中毒になりそうだ。 「どうして不安に思ったんだ?」と疑問に思い、また再読してしまうというか。

かさぶたを剥がして傷口を見てしまう心理に近いかも知れない。

本書に収録されている作品は下記の12篇。

  1. 「ナイフ投げ師」
  2. 「ある訪問」
  3. 「夜の姉妹団」
  4. 「出口」
  5. 「空飛ぶ絨毯」
  6. 「新自動人形劇場」
  7. 「月の光」
  8. 「協会の夢」
  9. 「気球飛行、一八七〇年」
  10. 「パラダイス・パーク」
  11. 「カスパー・ハウザーは語る」
  12. 「私たちの町の地下室の下」

ある町を訪れたナイフ投げ師の徐々に危険度を増していく興行と、恥じつつもそれに魅せられていく観客たちを絶妙な筆致で描いた表題作は傑作だが、 夜な夜な森に集う少女たちへの不安に満ちた大人たちの眼差し「夜の姉妹団」や夜中に目覚め町へ彷徨い出した少年と少女たちの交流「月の光」、天才自動人形職人の先鋭化のあまり突き抜けてしまった技巧を描く「新自動人形劇場」も素晴しいデキ。

「協会の夢」の主役である、謎の協会に買収され、日々、拡大と変化しつづける一大エンターテイメントの場と化した百貨店と、地下へと広がり徐々に淫靡さを増していく「パラダイス・パーク」登場のパラダイス・パークは、ひとつのテーマの裏表を描いた、いわば姉妹篇とでもいうべきもので、かなり気に入った作品。 ちなみに、どちらにも詳細なミニチュアが登場するのだが、著者が気に入っているモチーフのような気がする(ホントかどうかは知らんけど)。

楽しく読める本かといえば、首を捻ってしまうが、一度味わってみる価値のある一冊ではないかと思う。気に入るかどうかは読み手次第だけども。

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2008-04-23(Wed) [長年日記] この日を編集

晴のち曇

_ 宦官探偵、登場──イスタンブールの群狼 (ハヤカワ・ミステリ文庫 ク 15-1)(ジェイソン・グッドウィン) イスタンブールの群狼 (ハヤカワ・ミステリ文庫 ク 15-1)(ジェイソン・グッドウィン)

19世紀のオスマン帝国時代の首都イスタンブールを舞台に、宦官ヤシムが近衛新軍士官連続殺人事件を追うという一風変わった探偵小説が本書。

イスタンブールの活気溢れる町中の様子が生き生きと描かれ、月並だが「まるで見て来たみたいだなぁ」なんてことを思っていたら、それもそのはず。 著者はミステリ分野でこそ新人だが、オスマントルコ史については何冊もの著作を上梓しているベテラン歴史著述家とのこと。 根からのイスタンブール大好きっこが書いたんだから当たり前といったら当たり前ですなー。

純粋にミステリーとして見ると、人物視点がころころと変わったり、伏線が回収し切れていなかったりと粗も見えたりするのだけども、 イスタンブールと、料理好きなヤシムやその友人のポーランド大使パレフスキー、コサック舞踏手プリーンといった魅力的な登場人物たちは、そんな欠点も補って余りありますよ。

個人的には、作中で描写される風呂屋+マッサージが非常に気持ち良さそうで、一回体験してみたくなったり。

なお、訳者あとがきでは、登場するトルコ料理のひとつ、トライプ・スープのレシピも紹介されているので、そこらへんもちょっとお得。

イスタンブールLoveな人はもちろん、「美貌*1の宦官」という主人公にビビッとくる腐女子属性の人は読んで損なしの一冊。 あー、ちなみに、ヤシムはBLな人ではないので、そっち方面を期待して読まないように。

原著では宦官ヤシムを主人公とする第2作(既刊)、第3作(執筆中)とつづいているらしいので、邦訳されることを希望したい。

*1 かどうか分からないけど、なんとなく、そんな感じ

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