ぽっぺん日記@karashi.org
2008-05-01(Thu) [長年日記]
_ それは馬車からはじまった──
自動車爆弾の歴史(マイク・デイヴィス)
1920年9月のある暑い日の正午。 ニューヨークのウォールストリートに停められた爆発物と散弾を積んだ四輪馬車が巨大な火の玉を上げ爆発した。 爆発はウォールストリートにクレーターを作り、付近の車や建物を破壊し、歩行者たちを殺傷した。 死者は40名、負傷者は200名以上。犠牲者の中にはエクイタブル・トラストの社長やJ・P・モルガン・ジュニアの息子も含まれていた。 この爆破事件によりその日は史上初めて株式取引が中止される日となった。
この事件を引き起こしたのはイタリア系移民のアナキスト、マリオ・ブダ。 友人が不当に逮捕されてことに対する報復だった。 ブダがたった一人で「盗んだダイナマイトと金属片の束、そして老馬」(p.11)だけで行なったこの爆破事件は、後に続く自動車爆弾の血塗られた誕生となったのだ。
本書は、ペンタゴンが「オープンソース兵器」と呼び、「iPodやHIV/AIDSと同じくらい」(p.15)地球規模のものとなった自動車爆弾の誕生から現在までの系譜を解説している。
ウォールストリートでの誕生の後、自動車爆弾はパレスチナでのユダヤ人とパレスチナ人の血を血で洗う闘争を皮切りに、ヴェトナムでは米軍兵士を標的に炸裂し、アイルランドではIRA、レバノンでは数々の武装組織、そして世界中のマフィアに用いられ、その威力とコストパフォーマンスの良さから「貧者の空軍」と呼ばれるまでに進化した。*1
その「貧者の空軍」が猛威をふるった結果が、ベイルートのアメリカ大使館爆破事件であり、オクラホマ連邦ビル爆破事件であり、最近のアフガニスタンやイラクである。 また、9・11テロ事件のハイジャックされた旅客機を「貧者の空軍」の新たな進化形と見なしてもあながち間違いではないだろう。
著者は本書の最後で次のように述べている。
南ベイルートの共同住宅やカンダハルの土壁の屋敷へと発射されたレーザー誘導ミサイルのすべてが、テルアビブの中心地や、もしかするとロサンゼルスの繁華街にさえも突撃することを辞さない将来の自爆トラック爆弾を準備する。ブダの荷馬車はまさにこの世の終末を呼ぶ爆走改造車となったのだ。(p.298)
なんとも不気味な予言である。
紛争地やテロ集団に関する歴史的背景の解説には頁がほとんど割かれていないため、それらに関する知識がない読み手にはなかなか手強い本であるが、地球規模で対テロ戦争の嵐が吹き荒れる現代において読む価値がある一冊といえるだろう。
メモ
- CIA長官ウィリアム・ケイシーはアフガニスタンへ侵攻したソ連軍将校を狙った自動車爆弾をはじめとするテロ攻撃手段をムジャヒディンに教育することを指示した。それをバックアップしたのが、金髪女性を収集することとロシア人を殺すことに情熱を捧げたテキサス出身の民主党下院議員チャーリー・ウィルソンである。『チャーリー・ウィルソンズ・ウォー』もそのうち読む。
- 著者は第二次世界大戦における特攻機を「日本軍の文化の計り知れない謎」などではなく「卓抜な戦術手段」と評している。同意できる見解だ。
- カリフォルニアやテキサスの郊外のドライブウェイから盗まれたSUVが自動車爆弾へ転用するため中東へ輸出されている。イラクで用いられている自動車爆弾も米車が多いとのこと。
チャーリー・ウィルソンズ・ウォー 上 (1) (ハヤカワ文庫 NF 334)
早川書房
¥ 780
チャーリー・ウィルソンズ・ウォー 下 (3) (ハヤカワ文庫 NF 335)
早川書房
¥ 780
*1 さらに書けば、都市部ではステルス爆撃機などよりよほど隠密性に優れている。

まで頂ければ幸いです。
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