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ぽっぺん日記@karashi.org


2008-05-04(Sun) [長年日記] この日を編集

曇時々晴

_ 愛すべきマンネリズム──バンガローの事件 (創元推理文庫 M キ 5-3 ナンシー・ドルーミステリ 3)(キャロリン・キーン)

東京創元社様より本が好き!経由で献本御礼。

少女探偵ナンシー・ドルーが活躍するシリーズ第3弾。 あいかわらずの勧善懲悪なストーリーで、意外性はないものの、安心して子供に勧められるライト・ミステリだ。

今回のストーリーは、ナンシーと友人ヘレンが湖でボートに乗っていたところ嵐に襲われ、危ういところをローラという少女に助けられるところからはじまる。 彼女たちはすぐに意気投合し友人となる。 ローラが打ち明けた身の上話によれば、一月前に母を亡くし彼女は天涯孤独の身とのこと。 後見人となるアボーン夫婦に引き取られる予定なのだが、ローラは夫妻に不安を抱いていた。 ひょんなことからアボーン夫妻と知り合うことになったナンシーだが、ローラと同じく夫妻にはあまり良い印象を受けない。 夫妻が隠している思惑とは、いったいなんなのか──。

物語の骨子は、はっきりいってシリーズ第1作『古時計の秘密』とほぼ同じなのだが、一捻りしてあって「なるほど、そう来たか」と思わせるものとなっている (ちなみに、シリーズ最大のナンシー危機一髪的な展開もありますよ)。

とはいえ、前述の通り勧善懲悪なストーリー展開、 第一印象が良い人は善人で、第一印象が悪い人はやっぱり悪人という単純明快なキャラクター設定、 ナンシーの父カーソン・ドルーが手掛ける有価証券横領事件とのナンシーが追う事件がリンクするというご都合主義あたりは健在。

マンネリといえばマンネリなのだろうが、本書のターゲットとなっている児童にとっては、意外性のあるストーリーよりも本シリーズのような予定調和の方が安心して読めることは想像に難くない。 いってみれば、水戸黄門のような愛すべきマンネリズムなので、そこにツッコむのは野暮というものなのだろうね。

本書でちょっと気になったのが、行方不明のナンシーを探すために車を飛ばす(でも、法定速度はきちんと守る)カーソンが「ヘリコプターがあればどんなにいいかと思ってしまうよ」と言うくだり。

はて、原著が書かれた1930年にヘリコプターは実用化されていたかしらんと思いググってたところ、Wikipediaには次のように書かれていた。

1907年フランスのポール・コルニュ(Paul Cornu)が約2mの高さで20秒間のホバリングに成功した。 実際に、きちんと飛行できるヘリコプターが最初に飛行したのは、ハインリッヒ・フォッケにより1936年にベルリンで開発されたFocke-Wulf Fw61である。

1930年にはまだ実用化されていなかったと考えた方がよさそうだ。

カーソンのセリフは、我々が「自家用ジェット or 自家用ロケットがあればなー」とボヤくのに近い感覚なのかも知れないが、そのわりにローラが

「あのあたりは森ばかりですもの。きっと、降りられる場所が見つからないんじゃないかしら」

と冷静にツッコミを入れているあたりはちょっと変な感じではある。

そんな訳でストーリー以外に妙な部分が気になってしまう一冊でありました。


バンガローの事件

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書評/ミステリ・サスペンス

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2008-05-03(Sat) [長年日記] この日を編集

雨のち曇 最高気温:20℃

_ 夏の涯ての島 (プラチナ・ファンタジイ) (プラチナ・ファンタジイ)(イアン R.マクラウド) 夏の涯ての島 (プラチナ・ファンタジイ) (プラチナ・ファンタジイ)(イアン R.マクラウド)

英国SF作家イアン・R・マクラウドの日本オリジナル短篇集。

マクラウドの作品はこれまでS-Fマガジンや『90年代SF傑作選』などで何篇か紹介されてきたが、書籍として出版されたのは今回が初めて。 正直なところ、収録作の中には期待していたほど面白い作品は多くなかったのだけれども、マクラウド作品が一冊の本になったことは素直に喜びたい。

本書に収められている作品は下記の7篇。

  • 「帰還」
  • 「わが家のサッカーボール」
  • 「チョップ・ガール」
  • 「ドレイクの方程式に新しい光を」
  • 「夏の涯ての島」
  • 「転落のイザベル」
  • 「息吹き苔」

解説では

同世代の作家としては「グレッグ・イーガンと肩を並べる存在(ガードナー・ドゾワ)として注目された。(p.431)

なんて書かれているが、収録作を読んだ限りでは、ちょっと持ち上げすぎだなぁという印象。 イーガンのような驚くようなアイデアが見られる訳でもないし、センス・オブ・ワンダーもないし、純粋にSF作品として読むとかなり凡庸なんですな。 「ドレイクの方程式に新しい光を」にはナノマシン(?)による人体改造という技術も登場することはするのだが、ありふれた描き方で特筆すべきものでもないし。

ただ、ストーリー運びや人物描写は非常に巧みで、ここはイーガンに勝っていると言っていいのではないかと思う。 そういう意味でマクラウドの持ち味が発揮されるのは、SF性を剥ぎ取っても成立する「帰還」や「わが家のサッカーボール」、「ドレイクの方程式に新しい光を」といった人間関係を描いた作品であり、「チョップ・ガール」や「夏の涯ての島」といった歴史を扱った作品になるのだろう。

逆にダメなのが、背景世界の魅力で引っ張るタイプの「転落のイザベル」「息吹き苔」のような作品。 肝心の背景世界がなんとも魅力に欠けていてどうにも盛り上がらなかった。

収録作のベストは、第一次世界大戦に敗北したことによりファシズム化したイギリスを描く「夏の涯ての島」。

イギリスでは同性愛が違法だったことを下敷きにした、ユダヤ人や同性愛者に対する隔離政策という設定(第二次大戦下のイギリスにおける同性愛者への抑圧については『夜愁』(サラ・ウォーターズ)に詳しい)、ヒトラーと重なるファシズム英国の独裁者が権力の座を上り詰める様子など、史実からの一捻りのセンスもいいし、改変された歴史を俯瞰するのではなくあくまでも主人公の視点から描き出すストーリー展開もよく、 正統派と呼びたくなる改変歴史小説に仕上がっている。

ただ、作品中で日本が拡張政策を取り中国を侵略していることがほのめかされているが、第一次大戦に深くコミットこそしなかったが敗戦国であるはずの日本にそこまで出来るかどうかは疑問。 中国にプレゼンスを持つはずのドイツと利害の対立があるはずだしなぁ。 もしかすると、ドイツ弱体化のスキを突いて(史実と同様に)火事場泥棒的なことを行なっているのかも知れない。 でも、そうすると、ドイツに対抗して軍事力を強化しているはずのソ連との対立が激化して……と妄想が止まらなくなってしまいそうになる。

解説にも書かれていることだけど、個人的にも本書が出版された勢いで、ぜひ他のマクラウド作品の翻訳が進むことを希望したい。 改変歴史物が大好きな人間としては、エーテルがすべての産業の基礎となったヴィクトリア朝英国が舞台の『The Light Ages』と、その100年後『The House of Storms』が訳されれば嬉しいなぁ。

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本日のツッコミ(全2件) [ツッコミを入れる]

_ arton [>逆にダメなのが 賛成。最後の2つは読むのが退屈になって、途中で投げてしまいました(イザベルは読み終えましたが)。..]

_ poppen [眠くなりましたが、がんばって読みました(笑) > イザベル & 苔 マクラウドには改変歴史ものの他、社会主義SFみ..]


2008-05-01(Thu) [長年日記] この日を編集

晴のち曇

_ それは馬車からはじまった──自動車爆弾の歴史(マイク・デイヴィス) 自動車爆弾の歴史(マイク・デイヴィス)

1920年9月のある暑い日の正午。 ニューヨークのウォールストリートに停められた爆発物と散弾を積んだ四輪馬車が巨大な火の玉を上げ爆発した。 爆発はウォールストリートにクレーターを作り、付近の車や建物を破壊し、歩行者たちを殺傷した。 死者は40名、負傷者は200名以上。犠牲者の中にはエクイタブル・トラストの社長やJ・P・モルガン・ジュニアの息子も含まれていた。 この爆破事件によりその日は史上初めて株式取引が中止される日となった。

この事件を引き起こしたのはイタリア系移民のアナキスト、マリオ・ブダ。 友人が不当に逮捕されてことに対する報復だった。 ブダがたった一人で「盗んだダイナマイトと金属片の束、そして老馬」(p.11)だけで行なったこの爆破事件は、後に続く自動車爆弾の血塗られた誕生となったのだ。

本書は、ペンタゴンが「オープンソース兵器」と呼び、「iPodやHIV/AIDSと同じくらい」(p.15)地球規模のものとなった自動車爆弾の誕生から現在までの系譜を解説している。

ウォールストリートでの誕生の後、自動車爆弾はパレスチナでのユダヤ人とパレスチナ人の血を血で洗う闘争を皮切りに、ヴェトナムでは米軍兵士を標的に炸裂し、アイルランドではIRA、レバノンでは数々の武装組織、そして世界中のマフィアに用いられ、その威力とコストパフォーマンスの良さから「貧者の空軍」と呼ばれるまでに進化した。*1

その「貧者の空軍」が猛威をふるった結果が、ベイルートのアメリカ大使館爆破事件であり、オクラホマ連邦ビル爆破事件であり、最近のアフガニスタンやイラクである。 また、9・11テロ事件のハイジャックされた旅客機を「貧者の空軍」の新たな進化形と見なしてもあながち間違いではないだろう。

著者は本書の最後で次のように述べている。

南ベイルートの共同住宅やカンダハルの土壁の屋敷へと発射されたレーザー誘導ミサイルのすべてが、テルアビブの中心地や、もしかするとロサンゼルスの繁華街にさえも突撃することを辞さない将来の自爆トラック爆弾を準備する。ブダの荷馬車はまさにこの世の終末を呼ぶ爆走改造車となったのだ。(p.298)

なんとも不気味な予言である。

紛争地やテロ集団に関する歴史的背景の解説には頁がほとんど割かれていないため、それらに関する知識がない読み手にはなかなか手強い本であるが、地球規模で対テロ戦争の嵐が吹き荒れる現代において読む価値がある一冊といえるだろう。

メモ

  • CIA長官ウィリアム・ケイシーはアフガニスタンへ侵攻したソ連軍将校を狙った自動車爆弾をはじめとするテロ攻撃手段をムジャヒディンに教育することを指示した。それをバックアップしたのが、金髪女性を収集することとロシア人を殺すことに情熱を捧げたテキサス出身の民主党下院議員チャーリー・ウィルソンである。『チャーリー・ウィルソンズ・ウォー』もそのうち読む。
  • 著者は第二次世界大戦における特攻機を「日本軍の文化の計り知れない謎」などではなく「卓抜な戦術手段」と評している。同意できる見解だ。
  • カリフォルニアやテキサスの郊外のドライブウェイから盗まれたSUVが自動車爆弾へ転用するため中東へ輸出されている。イラクで用いられている自動車爆弾も米車が多いとのこと。

チャーリー・ウィルソンズ・ウォー 上 (1) (ハヤカワ文庫 NF 334) チャーリー・ウィルソンズ・ウォー 上 (1) (ハヤカワ文庫 NF 334)
ジョージ・クライル
早川書房
¥ 780

チャーリー・ウィルソンズ・ウォー 下 (3) (ハヤカワ文庫 NF 335) チャーリー・ウィルソンズ・ウォー 下 (3) (ハヤカワ文庫 NF 335)
ジョージ・クライル
早川書房
¥ 780

*1 さらに書けば、都市部ではステルス爆撃機などよりよほど隠密性に優れている。


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