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ぽっぺん日記@karashi.org


2008-05-11(Sun) [長年日記] この日を編集

雨のち曇 最高気温:13℃

_ 蒸気駆動の少年 [奇想コレクション] (奇想コレクション)(ジョン・スラデック) 蒸気駆動の少年 [奇想コレクション] (奇想コレクション)(ジョン・スラデック)

SF作家ジョン・スラデックの短篇集。

実は、スラデックは本書で初めて知ったのだが、その芸風はSFに留まらず、ミステリーやホラーからナンセンス小説、文学までと非常に幅広いもので驚かされた。

様々な雰囲気が味わえる一冊だ。

本書に収められている作品は全23篇。 印象の残った作品を10篇を挙げておく。

  • 誰も理由が分からないままお互いにスパイ合戦を繰り広げている家庭を描き、陰謀論大好なアメリカ社会をおちょくった「古カスタードの秘密」
  • マッドサイエンティストにより車がレイプ魔となる(ただし相手は機械)という怪獣SFパロディなユーモアポルノ「ピストン式」
  • 風光明媚な休暇旅行に出掛けたサラリーマンの終わらないバス旅行を陰鬱な筆致で描く「高速道路」
  • デニケンの宇宙考古学(最近だと『神々の指紋』な?)をおちょくった「神々の宇宙靴──考古学はくつがえされた」
  • 密室トリックをこれでもかとぶち込んだメタ・ミステリー「密室」
  • テディベアをモチーフにしたホラー「小熊座」(グレートゴーストダンスなんかが登場してちょっとShadowrunを思い出した。ちなみに、あとがきによれば、ロンドン大学にあるジェレミー・ベンサムの剥製は実在するとのこと。ホント?)
  • ハインラインの『人形つかい』ぽい侵略物だが、最後に皮肉が効いている「ホワイトハット」
  • なんとも分かり難いタイムパラドックス物「蒸気駆動の少年」
  • 大人と子供が役割が入れ替わった世界を描き、レジャーにうつつを抜かす現代社会を皮肉った「おとんまたち全員集合!」
  • 突如、本が鳥のように「渡り」をはじめる「教育用書籍の渡りに関する報告書」

収録作には3篇のミステリーが含まれているが、トリックにばかり注力して、事件の背景説明等は「どうでもいい」とばかりにほとんど無視されているのには笑ってしまった。 スラデックのミステリーは売れなかったらしいが、さもありなんという感じだ。

スラデックの作品の中には世界初のゲームブックもあるらしい。 どんなもんだか、ちょっと読んでみたい気がする。 本書が刊行されたことがきっかけで訳されればいいなぁ。

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_ 雨の合間に畑仕事&庭仕事

山椒

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山椒の実はまだ小さい。 収穫は来月だね。

トマト

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GW中に植えたトマトの苗木は順調。

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2008-05-10(Sat) [長年日記] この日を編集

雨

_ 備えあれば憂いなし──「戦争」の心理学 人間における戦闘のメカニズム(デーヴ・グロスマン/ローレン・W・クリステンセン) 「戦争」の心理学 人間における戦闘のメカニズム(デーヴ・グロスマン/ローレン・W・クリステンセン)

『眠れない一族』に続いて、これまたスゴイ本!

退役軍人にして軍事学教授である著者が上梓した『戦争における「人殺し」の心理学』の続篇が本書。

前著は去年読んだノンフィクションの中で最も衝撃受けた本のうちの一冊だが、本書もスゴイ。 600ページという大著だが、ぐいぐい引き込まれて一気読みしてしまった。

本書のテーマは、「なぜ兵士は敵を殺せないのか」を命題にした前著より一歩踏み込み、「では、戦士たち(著者は兵士や法執行官といった職業として戦闘に携わる人々をこう呼んでいる)が精神的なダメージを受けずに敵を殺すためにはなにが必要なのか」というもの。

今回は、前著『戦争における「人殺し」の心理学』のときとはちがって、実際に戦士──毒と腐敗と破壊に満ちた戦闘という環境に、実際に身を投じる人々──の役に立つ本を書くことにより力を入れた。(p.10)

と著者が謝辞に書いている通り専門家を対象にしてはいるが、前著と同様、軍事知識のない一般人でも読めるリーダビリティの高い本となっている。

これまで極限状態の体験談として語られてきた、いつもは簡単に出来るなんでもないこと(弾倉を交換する、引き金を引かない、警察に電話する等)が出来なくなる、聴覚が抑制され銃声さえ聴こえなくなる、視野が極端に狭くなる、時間が遅く進んでいるように感じるといった現象に著者は生理学的観点から光を当てている。 それらは単なる思い込みなどではなく、万人に共通する現象なのだ。

そういった現象に対処するために実践的な訓練が必要であることを著者は述べている。 射撃訓練には板ではなく写真を貼り人間を模したターゲットやヴァーチャルリアリティを用い、対抗訓練にも空砲ではなく当たれば痛いペイント弾を使用する、などがそれである。

また、戦闘に打ち勝つためには、危険な相手を制止する必要がある時には躊躇なく中枢神経に弾丸を叩き込む、撃たれても立ち上がって反撃する、最後には生き延びることに全力を尽くすという決意を持つことが大事だとも語られる。

心臓を撃たれテニスボール大の穴を開けられた後にも強盗を追跡して撃退し、手術中に心臓が二度止まりながらも生き延び現職に復帰した女性警官、ショットガンで撃たれ脳に散弾が入る重傷を負いながらも反撃し犯人を射殺した警官といった逸話には、人間の意思がどれだけ力を持つものであるかを強く感じさせられる。

著者は 「テロリストや犯罪者といった悪から一般人を守るためには番人たちが法や正義に基づいて行使する暴力が必要」という実利的なスタンスで本書を記している。 そこに「正義とはなにか」や「どんな状況で暴力は許されるのか」といった抽象的な問いが入る余地はない。 それゆえに本書を受け入れ難く感じる人もいるとは思うのだが、どんな信条の人であっても読む価値がある書だと断言しておきたい。 なぜなら思想・心情に関係なく降りかかる事件や事故、災害に対処するためにも本書は役に立つに違いないからだ。

たとえば、著者は様々なインタビューやリサーチから危機的状況に立ち向かった戦士たちと暴力的な事件(9・11テロや学校での銃乱射事件など)の被害者たちに共通する、次のような身体的・心理的影響があることを示す。

  • 危機的な状況になると大小の失禁してしまう。
  • 友人や仲間が殺されるような場面を生き延びた場合、「自分ではなくて良かった」と最初に思う。
  • 犠牲者が亡くなった理由を根拠なく自分の所為だと思い込む。

最初の失禁は措いておくにしても、残りの2つについては知らないと事後、自分が利己的であり、救える命も救えなかった人間だと思い悩む原因となりかねない。

著者は精神的なダメージを軽くするために関係者一同が集まり、なにがあったかを話し合う事後報告会が有効であると述べている。 日本においても事件や事故、災害などで被害者がPTSDを発症するケースが多い。 被害者の二次被害を防ぐためにも事後報告会のような取り組みが必要とされるのではないだろうか。 著者が唱える事後報告会の意義、

人の命を救うためにあるのだ。(p.528)

は重く受け止めるべきだろう。

その他の興味深かったことについても触れておきたい。

そのうちのひとつが睡眠の重要性を示すために著者が引いている、ある砲兵大隊で行なわれた実験だ。 その実験とは大隊を4個中隊に分け、睡眠時間をそれぞれ7、6、5、4時間とし、20日間に渡り起きている時間はずっと砲撃訓練をするというもの。 その結果が

七時間眠っていた第一群は最高で九八パーセントの命中率をあげたが、第二群は五〇パーセント、第三群は二八パーセント、そして一日わずか四時間睡眠だった気の毒な第四群は、最高一五パーセントの命中率しかあげられなかった。(p.62)

というものだったそうである。 一般的な勤め人であればミスの連続といった感じだろうか。 1日4時間睡眠でずっとやっていけると考えている人(著者の言うところの「ミスター1日4時間睡眠」)は考えを改める必要がありそうだ。

また、前述した通り、極度の緊張状態となった際には911(日本でいえば、110や119)にダイヤルすることさえ難しいという事実も興味深かった。

  • 何度やっても番号案内にかけてしまう。
  • 外線発信番号をプッシュすることを忘れる。
  • 携帯電話で「番号をダイヤルしてから『通話』ボタンを押す」ことが思い付かない。

そんな状態に陥ってしまうそうだ。 対策として、普段から緊急電話へダイヤルすることを普段から練習をすることを著者は提案している(もちろん、電源を切るなり、電話線を抜くなりして実際にはかからない状態にしてから)。

普段の練習の他に、ストレスを軽減するために著者が推奨しているものが「戦略的呼吸法」と名付けている腹式呼吸だ。 これは怪我をした時やパニックに陥りそうになった時といった危機的な状況だけでなく、キレそうになった時などにも活用できると思うので引用しておく。

まず、ゆっくり四つを数えながら鼻から息を吸い、腹を風船のように膨らませる。そこで息を止めて四つを数えながら今度は口から息を吐き、空気の抜けた風船のように腹をへこませる。息を吐ききったところで、息を止めてまた四つを数えたら、この手順をまた最初からくりかえす。(p.537)

非常にシンプルな方法だが、「ゆっくりと深呼吸する」ことを普段から行なっている人であれば納得できるのではないだろうか。

著者はまた本書の中で暴力的な映画やテレビ、ゲームが子供に与える悪影響についても繰り返し警告している。 これまでにも散々言われていることであるし、「ゲーム脳」云々という名前を持ち出して反発する向きもあるのではないかと思うが、著者が事例として引いているスタンフォード大学が小学生を対象に行なった実験を読んだ限りでは信憑性があるように感じられる。 その実験によれば、テレビの視聴時間を一学期間減らした時、暴力の顕著な現象が見られたそうである。 この実験結果を信用するかどうかは別としても、少なくとも6〜7歳の人格形成期に暴力的なメディアに子供を接しさせないという対策は推奨されるべきだろう。

本書を読んだだけで、極限状態における精神的・身体的なコントロールが出来るようになる訳ではないのは当然である。 しかし、どういう現象が起きるかを頭の片隅にでも入れておけば、いつか役に立つ時がくるかも知れない。

備えあれば憂いなし。そんな言葉を実感させてくれる書だ。

戦争における「人殺し」の心理学 (ちくま学芸文庫) 戦争における「人殺し」の心理学 (ちくま学芸文庫)
デーヴ グロスマン
筑摩書房
¥ 1,575


2008-05-09(Fri) [長年日記] この日を編集

曇時々晴 最高気温:22℃

_ プリオン発見の歴史を紐解くスゴイ本──眠れない一族―食人の痕跡と殺人タンパクの謎(ダニエル T.マックス) 眠れない一族―食人の痕跡と殺人タンパクの謎(ダニエル T.マックス)

『解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯』並みに面白いノンフィクションがないなぁと思っていたら、とんでもなく面白い本がktkr。

これはスゴイ本! 医療系のノンフィクションなのだが、ミステリー的な面白さもあり、一気読み。

本書は、イタリアのある高貴な一族の物語からはじまる。 彼らは18世紀から現代まで続く原因不明の奇病に悩まされていた。 一族のうち2人に1人という高確率で、50代になる頃に異常な発汗と瞳孔縮小という症状が生じた後、全く眠れなくなり徐々に衰弱しながら死亡してしまうのだ。

当初は呪いとも考えられていたこの奇病は、その後「致死性家族性不眠症(FFI)」と名付けられたものの原因は分からずじまいだった。 その原因が特定されたのはつい最近のことである。

その原因となる物質こそ、本書のテーマであるプリオンだ。

プリオンはウィルスやバクテリアと違い、ただのタンパク質すぎず、生きている訳ではない。それにも関わらず、感染性、遺伝性、散発性を持ち、

煮沸してもだめだし、熱も効かない。放射線でも確実にプリオンを「殺す」ことはできない。プリオンは、ホルムアルデヒドを注ぎかけても無害にならないどころか、ますます強靭になる。漂白剤もプリオンを死滅させるとはかぎらないし、有効なものも、高濃度で使用しなければならない。(p.31)

という不死性さえ持っている。 感染した後、自分と同じ折り畳まれ方のタンパク質を増やしてゆくという増殖方法をとるプリオンは、今までの医学の常識を打ち壊す存在だった。

著者は、18世紀のイギリスの羊の間で大流行した「スクレイピー(こすり病)」、パプアニューギニアの奥地に住むフォレ族に猛威を奮った「クールー(震え病)」、そして世界を震撼させた狂牛病を通してプリオンが発見された歴史を紐解いていく。

特に狂牛病では、日本のそれに劣らないイギリスの強烈な官僚主義により対策が後手後手に回った経緯を詳細に記していて、非常に興味深い。 なんと、人間の食品よりもペットフードの方が牛の扁桃や腸、脾臓といった危険部位の使用の禁止が早かったことさえあったのだ。 著者はその対策の遅さを

つまりイギリスでは五ヶ月のあいだ、人間でいるよりも犬でいるほうが安全だったというわけだ。(p.239)

と痛烈に非難している。

本書では、プリオンを発見した功績によりノーベル賞を贈られたガイジュシェックとプルジナーという2人の科学者が取り上げている。 ただし、この2人、お互いに相手のことを嫌悪している点は横に措くとしても、はっきりいってまともな人間ではない。 ガイジュシェックは少年を対象にした小児性愛者で、後に性的虐待の罪で投獄されるし、プルジナーはプルジナーで強烈な上昇指向を持ち、他人の研究結果や論文の剽窃などなんとも思っていない人間なのだ(ちなみにプリオンと名称はプルジナーによる。その命名理由のひとつが、自分の名前に似ているからだそうだ)。 しかし、このような2人がいなければ、プリオンの研究が進んでいなかったかもしれないというのは歴史の皮肉というべきだろうか。

本書はまた、イギリス人にはプリオンに罹患し難い遺伝子コードを持つ人間が多いことを明らかにする。 それが狂牛病に汚染された食品が6400億食分があったにもかかわらず、死者がイギリス全体で約150人に留まった理由だった。

では、なぜプリオンに感染しやすい人、その反対に感染し難い人がいるのか。 著者は80万年前に人肉食が行なわれていたとの仮説を提示する。 人肉食を行なった人間の子孫がプリオンに罹患し難い「ヘテロ接合体」で、行なわなかった人間の子孫が「ホモ接合体」だというのだ。 日本人の多くはホモ接合体であり、そのためアメリカで狂牛病が発生した際、日本政府が過敏に反応した理由だそうである。 日本人としては気になる情報だ。

あとがきでは、眠れない一族に同情を寄せるとともに、珍しい症例の患者たちをモルモット扱いする研究者たちの態度を冷静な筆致で批判している。

自身も遺伝病を患う著者の渾身の書である。

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