ぽっぺん日記@karashi.org
2008-05-30(Fri) [長年日記]
_ カラヴァッジョという病に感染した人々──
消えたカラヴァッジョ(ジョナサン・ハー)
本書の主人公は人ではなく、イタリア・バロック期の天才画家、カラヴァッジョがキリストが捕えられるシーンを活写した傑作『キリストの捕縛』。
200年もの間行方が分からなくなっていた、この絵画の真作が1990年に発見された経緯を描いたノンフィクションが本書である。 歴史ミステリー仕立てとなっていて、美術オンチ*1にも楽しく読めること請け合いの一冊だ。
『キリストの捕縛』の失われた200年の歴史を明らかにすることとなったのが、ローマ大学で美術史を専攻する24歳のイタリア娘2人組の功績によるものだとは、まるで映画かマンガのストーリーのようだが、ホントの話。 本書の前半では、彼女たちの活躍が生き生きとした筆致で描かれている。
2人が没落したイタリア貴族の地下文書庫に「潜入」し、今まで誰も手を付けたことのない財産目録や古帳簿の内容から絵画の行方を追う過程は、インディ・ジョーンズばりで(ちょっと大袈裟か)なかなかスリリングだ。 惜しくも彼女たちは自分たちの手で『キリストの捕縛』の見付けることは叶わなかったが、彼女たちの調査結果が後に発見される絵画が真作であることを示す証拠となるのである。
実際に『キリストの捕縛』の発見することとなるのが、功名心に燃えるベテラン絵画修復士。 彼が絵画を発見する経緯については本書に譲るが、結果を出すことに急ぐあまり『キリストの捕縛』の修復に危うく失敗しかけた事件(ただし、本人は否定)についても記している。 著者は関係者全員にインタビューをしているらしいが、この本を上梓した後、修復士との関係は確実に悪くなったのではないだろうか。
後半では『キリストの捕縛』の発見と、そのニュースが世界を騒がせた顛末が描かれる。 絵画にありったけの情熱を注ぐ老イギリス人美術史家や、名声を得たい美術学者たち、スクープをものにしたいジャーナリスト、一攫千金を目論む古美術商といった「カラヴァッジョ病」に感染した様々な人々が絡んできて、一大人間模様が展開されるのだ。 一枚の絵画に翻弄される人々の姿は、傍から見ると滑稽だが、200年の時を経てもなお色褪せない傑作であるがゆえということなのかもしれない。
現代で展開されるストーリーの合間に語られる、 絵筆を握っていない時には剣を握り私闘に明け暮れ、遂には殺人を犯してしまうカラヴァッジョのメチャクチャな人生は、ある種の魅力を放っていて引き付けられる。 その38年の生涯が、ローマ法王に恩赦を求める旅路で倒れたことによって閉じられたという事実は、いかにもカラヴァッジョらしい数奇な最後といえるだろうか。
本書で読んでいて惜しいなぁと思うのが、登場する絵画の写真が掲載されていないこと。 本書の主役である『キリストの捕縛』はカバーに一部分が掲載されているが、一部分だけではいかにも寂しい。 やはり、ここはカラー写真で『キリストの捕縛』と、作中に幾度も登場する『洗礼者ヨハネ』は押さえて欲しかった。
そんな訳で少々残念な部分もあるが、傑作の太鼓判を押せる本であることは間違いない。 オススメ。
*1 ちなみにオレのことね。



まで頂ければ幸いです。
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