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ぽっぺん日記@karashi.org


2008-06-01(Sun) [長年日記]

晴のち曇

_ 無軌道なグローバル化を修正せよ──世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す(ジョセフ・E. スティグリッツ)

本が好き!経由で献本されたものをシルフレイ様から回して頂きました。 御礼申し上げます。

著者はクリントン政権と世界銀行で政策立案に携わり、その後にノーベル経済学賞を受賞したスゴイ人。

そんな著者がグローバル化の軌道修正について提言したのが本書だ。 経済についてはまったくのド素人だが、経済用語を使わない平易な文章で書かれており、なかなか面白く読めた一冊だった。

先進国、途上国問わず、世界のどこであっても機会が均等に訪れるようになり、貧困も徐々に撲滅されていく、というものがグローバル化についての一般的な考え方である。

しかし、著者の主張はその逆。 グローバル化の加速によって先進国と途上国の格差は広がっているというものだ。

これだけであれば、コーヒー豆をテーマにしグローバル化の問題を告発した書、『コーヒーの真実―世界中を虜にした嗜好品の歴史と現在』を読んでいたので、まぁ、そうだろうなという印象なのだが、本書の特筆すべき点は、貿易や経済だけでなく、政治、外交、知的財産権、資源問題、地球温暖化などの環境問題、多国籍企業、借款、と非常に多岐に渡った角度からグローバル化の問題点を浮き彫りにするとともに、その解決策を論じていることだ。

  • 最貧国はIMFや先進国から援助を得る代償として、様々な条件をむりやり押し付けられる。
  • 先進国は途上国に不利な貿易協定をごり押しする。
  • 先進国は途上国に市場開放を要求する一方、途上国が稼げるはずの農業分野については、国内農業の保護を優先し市場開放には応じない。
  • 先進国や多国籍企業は途上国から資源を収奪し環境を破壊する。

など、様々な問題点が俎上に上げられるが、その中でも特に興味深かったものが、薬品に関する知的財産権問題である。

世界中には古来から伝わる植物を使った民間療法がある。 なんと欧米の製薬企業が中心になって、そのような植物を「再発見」し、特許を取得しているというのだ。 これを「バイオパイラシー」(「パイラシー」=「海賊行為」)と呼ぶらしい。 これだけでも怒りを覚えるところだが、さらにスパイスであるターメリックの治療目的効果の特許までも取得したというのだから怒りを超えてあきれてしまう(幸いにも、その特許は最終的には無効になったらしいが)。

このような破廉恥なふるまいをしているにも関わらず、エイズやマラリアなど命に関わる疾病のジェネリック薬品が開発途上国で出回るのを全力で阻止し、ブッシュ政権もそれを支持しているというのだから言葉を失う。著者がこの解決策のひとつとして示す、先進国は途上国に医薬品を原価で提供すべきという案には深く頷けた。

傾聴すべき意見が多く含まれている本書であるが、問題点があることも指摘しておきたい。 そのひとつが筆者の提示する解決策があまりにも理想主義的でありすぎることだ。

著者はまとめの第10章で、グローバル化を正常化するためには我々の意識改革が必要だと説き、次のように書いている。

わたしたちは日増しに強くグローバル経済の影響を受けていながら、依然として、不合理なまでに局地的な考えかたをする。(中略)わたしたちは、自分の福利に直接かかわりのある事柄にしか注意をむけない。アメリカの綿花生産者は補助金制度から自分が得るもののことだけを考えて、世界の何百万人もが失うもののことには思いがおよばないのだ。(p.403)

これが立派な提言だということは否定しない。 だが、実際、我々の一人一人がこのような気持ちを持てるかと言えば、難しいだろうというのが正直な感想だ。 だいたい、隣町の住人のことを考えて生活することさえ難しいのだ。 ましてや世界の人々のことを考えて生きるなどということは、全世界の住人が繋がるような、よほどのテクノロジーの発達でもない限り不可能ではないかと思わざるをえない。

もうひとつの問題にして最大のものが、著者は終始、第三者的な視点を崩さないが、本書で挙げられているグローバル化の問題のいくつかは、著者自らその立案に関わり実行したために生じたのではないかというという点だ。 誠実さを示すためにも、少なくともその弁明くらい記すべきではなかったのかとは感じた。

以上のように、問題点もなくはないが、グローバル化を考える上では非常に参考になる書であることは間違いない。 本書をグローバル化の「暗」の部分を記した本とするならば、その「明」の部分を書いた『フラット化する世界』と読み比べてみると興味深いのではないかと思う。

最後に、本書の序文(邦訳版のみ)で、著者はサブプライムローン問題の引き金となったアメリカにおける住宅バブルの崩壊に警鐘を鳴らしている。 この点は素直にさすがと言うべきだろう(残念ながら、著者の警告は政策担当者には受け入れられなかったようではあるが)。


世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す

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