ぽっぺん日記@karashi.org
2008-07-12(Sat) [長年日記]
_ 汚染されていると分かっていても海外から運ばれてくる食料を食べるか、手間がかかっても食料を自分たちで作るか──
食料植民地ニッポン(青沼 陽一郎)
これはスゴイ本。 食料という存在について、いかに無知であったかを思い知らされる書である。
我々が「サケ」と呼ぶ魚が海まで戻らず、そのまま淡水の湖沼に留まると、白身の「マス」になるということを実は本書で初めて知った。 マスは白身で、サケは赤身だが、サケは海でエビやカニなどを食べるため、その色素が身体に入り赤身になるそうである。
スーパーで鮭の切り身を見ると、「チリ産」と表記されてものをよく見掛ける。 だが、驚いたことに、サケはもともと南半球に生息していなかった魚なのだ。 では、なぜ、チリ生まれのサケが存在するのか。 人間が養殖場で育てているのである。
しかし、養殖場でサケにエビやカニを食べさせる訳にはいかず、そのままでは白身のままだ。 そこで、普通の赤身のサケを求める消費者(一番の大口はもちろん日本人だ)のニーズに合わせて、赤身となる色素を加えた飼料を与えているのだそうである。 なお、急いで付け加えておくが、本書で取り上げられた養殖場でサケに与えている飼料は安全性にこだわるため、外注はせず自分たちで生産し、使われている色素も日本の飲料に含まれているものと同じものだということだ。
とまれ、そのようにして育てられた赤身のサケがはるばる地球の裏の日本まで運ばれてくるのであるが、それだけではない。 加工が必要な場合には他国を経由するのである。 たとえば、さきほど挙げた切り身である。 サケはまずチリからタイに運ばれる。 そこで切り身に加工され、味付け用の液の漬けられてから、真空パックで冷凍梱包され日本へと輸送されるのだ。
前置きが長くなったが、貿易自由化とともに、このように日本の食卓は海外に依存するようになった。 経済の発展とともに、年々日本の自給率は下がりつづけ、こんにちでは、実にカロリーベースで61%を海外に頼るようになってしまっている。 日本にとっての食料の最大輸入相手国は、米中の二大強国である。 もし、米中のどちらかに食料の輸入がストップされるようなことがあれば、日本はあっという間に飢餓状態に陥る。
著者は、そのような状況にある日本を「食料植民地」であると喝破し、 「長寿県」だったはずが、アメリカナイズされた食文化の浸透により平均寿命が劇的に下がっている沖縄、BSEに感染した牛が発見されたアメリカの牧場や食肉工場、タイの工場で作られる広島風お好み焼きやたこやき、中国のアジフライ工場など世界各地を巡り、日本を取り巻く食料事情を浮き彫りにしていく。
海外から輸入した食品の問題といえば、BSEや毒餃子が記憶に新しいところだ。 食の安全を守ることの重要性を述べる一方で、著者は日本の消費者のクレームが多すぎる現状を舌鋒鋭く批判する。
アジフライの尻尾に衣がついている、 海老フライの尻尾が欠けている、 魚フライから小骨一本出てきた──こんなことがあれば、たちまちクレームである。 食料輸出元が値段を買い叩くくせにクレームが多い日本に愛想を尽かし、文句も言わず高く買ってくれる他国へと輸出先をシフトする「買い負け」が起きるだろうと著者は警告する。
本書で述べられる著者の主張を乱暴にまとめてしまえば、我々がとるべき道は次のふたつとなる。
汚染されていると分かっていても海外から運ばれてくる食料を食べるか、手間がかかっても食料を自分たちで作るか、である。
どちらをとるのか。 食料高騰がつづく世界情勢を考えれば、日本人がどちらの選択肢を選ぶかを迫られる時がくるのは近いのかも知れない。
生きていく上で欠かせない存在だからこそ、ほとんど意識しない食料。 そこに潜む問題について考える切っ掛けを与えてくれる好著である。 強く一読をオススメしたい一冊だ。
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BSEについては プリオン発見の歴史を紐解くスゴイ本──眠れない一族―食人の痕跡と殺人タンパクの謎(ダニエル T.マックス) - ぽっぺん日記@karashi.org (2008-05-09)で紹介した『眠れない一族』が参考になると思う。
プリオンを発見した功績によりノーベル賞を授賞したプルジナーの誉められない人間性も知ることができる本だ。


まで頂ければ幸いです。
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