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2008-07-15(Tue) [長年日記]
_ 第三帝国の無血征服劇を描き出す──第三帝国の興亡 2 (2)(ウィリアム L.シャイラー)
同時代を生き、自らの目で第二次世界大戦前の欧州を見たジャーナリストである著者が膨大な資料を駆使しながら、「千年帝国」と呼ばれつつもわずか12年余で幕を閉じたドイツ第三帝国の興亡を描くノンフィクション・シリーズの第2弾。
- 松浦 伶
- 東京創元社
- 2415円
書評/歴史・記録(NF)
本書ではヒトラー率いるナチスが独裁政権を確立した1934年から筆を起こし、1938年のオーストリア併合を経て、チェコスロヴァキアを無血征服した1939年初頭の大戦前夜までが語られる。 著者は自身が目撃した場面や肌で感じた空気を交えながら、大戦前のドイツやその軍門に下ることになるウィーンやプラハ、そして英仏両国とドイツとの駆け引きを活写していく。
その筆には怒りが込められている。
怒りが向けられている対象のひとつは、もちろん、ヒトラーをはじめとするナチスに対してである。 ゲシュタポと強制収容所を用いた恐怖政治により国内を統治し、 外交では平和を唱えながらも、その実、領土的野心を剥き出しにしていたナチスに対する軽蔑を著者はあらわにする。
ナチスが行なった強権政治やユダヤ人迫害を好ましくはないと感じつつも、ヴェルサイユ条約のくびきからドイツを解放し大国へと押し上げると同時に、雇用を保証する(それが中世の農奴に近いものであったとしても)という政策に迎合したドイツ国民と、ドイツ国内で唯一ヒトラーに逆らえる存在だったはずの組織であるにも関わらず日和見を決め込んだ陸軍も、また怒りの対象となっている。
その怒りの矛先はナチス・ドイツの蛮行を未然に防げたはずの国際社会──特に英仏にも向けられている。 両国はオーストリア併合を黙認するどころか、あまつさえ
最後の領土的要求(p.327)
というヒトラーの言葉を無邪気にも信じ、チェコスロヴァキアへの侵略を御膳立てることまでしてしまった。 彼らが自らの間違いに気付いた時には、もう手遅れだったのである。
本書で印象に残るのは、ドイツ国民はヒトラーの暴走を黙認こそしたが、決して戦争を望んでいはいなかったということだ。 チェコスロヴァキア征服直前、民衆の戦争熱を煽るため、ヒトラーは首都ベルリンでの軍事パレードを陸軍に命じた。 彼は隊列に熱狂する群集を想像したに違いない。 しかし、実際はそうはならなかった。 その様子を目撃した著者は次のように記している。
ひとびとは見物もせずに地下鉄に駆け込み、舗道に立ちつくすひとにぎりのひとたちも黙って見守るだけだった。……それは、わたしが目にしたもっとも衝撃的な反戦の意思表示だった。(p.335)
第一次世界大戦で打ちのめされたドイツ国民は、もう戦争はこりごりだと思っていたのだ。 それは戦勝国であった英仏にも共通する考えだった。 だが、戦争を忌諱するあまり、ナチス・ドイツの愚行を止めることをできなかったのは歴史の皮肉というべきだろうか。
国際社会に見放されドイツに屈服したチェコスロヴァキア外相クロフタは次のようにいったという。
今日はわれわれがやられましたが、明日は別の国の番です(p.378)
この言葉が正しかったことは歴史が証明している。
本書は次の一文で締められる。
そして、ポーランドの番が来た。(p.451)
全世界に未曾有の死と破壊をもたらした大災厄──第二次世界大戦が遂にはじまる。




まで頂ければ幸いです。
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