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ぽっぺん日記@karashi.org


2008-09-01(Mon) [長年日記]

_ テロリズムを撲滅するためには、それを理解しなくてはならない──テロリズムを理解する―社会心理学からのアプローチ テロリズムを理解する―社会心理学からのアプローチ

9・11同時多発テロ後に、米国心理学会の要請によって編纂されたテロリズムに関する論文集が本書。

体裁が学術書なので硬いイメージではあるが、門外漢の一般人でも読みこなせるだけのリーダビリティを備えた一冊だ(少々手強い箇所もあるが)。

収録された論文は全部で13本。 論者である心理学者たちはテロリズムの定義や分類にはじまり、アメリカに反発する中東地域がもつ歴史的・社会心理的背景、テロリストの論理、テロリズムと避難民の関係、テロ被害者たちの救済といった様々な視点からテロリズムの本質を浮き彫りにしようとしている。

テロリストを単なる犯罪者と断じ、テロ活動を放火や誘拐や殺人と同レベルのものとする、近視眼的と評せざるをえない論文(ブライエン・ハレットによる第2章「不正直な犯罪、ごまかしの言葉」)もあるが、本書に論文を寄せた心理学者たちの基本的なスタンスは、「アメリカにもテロリズムを誘発する要因があるのではないか」というものだ。

たとえば、第1章「国際テロリズムの分析と考察」を執筆したアンソニー・J・マーセラは、アメリカが覇権主義的グローバリゼーションを展開し、世界的な貧困に拍車をかけていることがことがテロリズムの原因となる絶望と憤りを生み出していると指摘している。 また、ナジ・アビ=ハシュムは第3章「中東における平和と戦争」において、文化面では多様性を理解せず、自国の文化を洪水のように輸出してイスラム文化を破壊し、政治面では自分たちの都合によりころころと変わる一貫しない外交政策をとるアメリカを指弾する。

「ある人にとってのテロリストは、別の人から見れば自由の戦士である」という構図に関連して、リチャード・V・ワグナーとキャサリン・R・ロング(第10章「平和心理学から見たテロリズム」)が示す見解も興味深い。 彼らは「平和は紛れもなく善であり、戦争は悪である」という根本的な考え自体もキリスト教的世界観によるものではないかと述べているのだ。 真にテロリズムをなくそうとするのであれば、そこまで踏み込み文化的な差異を理解することが必要とされるのだろう。

第13章「テロリズムへの心理学の対応」には、9・11直後のニューヨークにおいて、実際に被害者たちのメンタルケアに従事した心理学者の手記が収められている。 世界貿易センタービルから目の前に落下した消防士を助けられなかったと自らを責める若き女性医師など、理不尽な死に遭遇した人々の姿には胸が締めつけられる。 しかし、そこはまた人々がお互いに助け合う場でもあった。 人間の持つ善なる力を見せられる章である。

「テロリズムを理解する」というメインテーマについては、暗中模索の状態にあるというのが本書を読んでの正直な感想だ。 しかし、本書が未曾有の大規模テロ攻撃を受けたアメリカにおいて刊行されたということには大きな意義がある。 そこにはテロリズムを憎むのではなく、それを知り、この世からなくそうという姿勢があるからだ。

間違いなくテロリズムは悪である。 しかし、その本質を理解しなければ、テロリズムを撲滅できないこともまた事実だということを教えてくれる書である。

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