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2008-11-29(Sat) [長年日記]
_ ジェームズ・ボンド、危機一髪──
007/ロシアから愛をこめて (創元推理文庫)(イアン フレミング/Ian Fleming/井上 一夫)
♪デンデケデンデーンデンデ、デンデケデンデーンデンデ、デンデー、デンデンデンデなテーマ曲で有名な〈ジェームズ・ボンド〉シリーズ第5弾が本書。 映画〈007〉シリーズ最新作、慰めの報酬の上映を記念して(?)新装版となった。
時は冷戦の真っ只中の1956年。 英国秘密情報部に何度も煮え湯を飲まされてきたソ連情報機関群は暗殺機関スメルシュの主導で英国情報部に一矢報いる作戦を立案する。 それは英国情報部のエース諜報員である007ことジェームズ・ボンドを罠に掛け、血祭りに上げる計画だった。 ボンドの餌となるのはロシア美女タチアナ。 彼を処刑する工作員として送り込まれるのは、元イギリス人で殺人をなによりも愛する男グラント。 そして、舞台として選ばれたのはトルコの首都イスランブールだった。
英国情報部トルコ支局は、タチアナよりソ連側の暗号機〈スペクター〉とともに英国に亡命することの打診を受ける。 彼女が希望したのは、ソ連側の書類の写真を一目見て恋に落ちた諜報員ジェームズ・ボンドに会うことだった。 英国情報部を統括するMとボンドは、出来すぎた話に警戒しながらも、タチアナの提案に乗ることを決定する。 イスランブールに飛ぶボンド。 しかし、それはチェスのように何手も先を読まれた作戦に自ら飛び込むことに他ならなかった──。
原著が書かれたのが、今から50年前以上の1957年だが、古さを全く感じさせず、さすが、映画シリーズが今でも新作として撮られるだけのことはあるなーと感心させられた。 約1/3を使って描かれたソ連側の謀略と、罠にはまるボンドの危機一髪は最後まで飽きさせず一気に読ませる。 実は(献本して頂いてなんだが)「50年以上前の作品だから、そんなに面白くないだろう」と考えていたので、嬉しい誤算だ。
前々から後述するように実際にスパイであったイアン・フレミングの作品には興味があったのだが、実際の作品を読むのは本書がはじめて。 シリーズものの一作であるが、映画の〈007〉シリーズを観たことがあれば、特に悩む必要がなく理解できる。
とりあえず、
- 英国情報部の親玉M
- ボンドに特殊装備を渡すQ(本作では個人ではなく、「Q課」という一部門になっているが)
あたりのいつもの登場(人物|組織)が分かっていれば、全然問題なし。
本書を読んで意外だったことが2点ほどある。
まず、ボンドの愛銃が映画版のトレードマークとでもいうべき、ワルサーPPKではないこと。 25口径のベレッタということでググってみたところ、ベレッタM1919のことらしい。 へー、である。 WikipediaのワルサーPPKによると、ボンドは本作が契機となりワルサーPPKを持つようになったとのこと。 なるほど、雑学の知識がひとつ増えた。
意外だった点のもうひとつが、ボンドが精神的に弱いこと。 まぁ、美女に弱いのは、映画でもそうなのだが、本作では殺人に対して精神的な弱みを見せるのだ。 ある人物の暗殺に手を貸したボンドはこう述懐する。
ボンドはこういう冷酷な暗殺はやったことがなかった。殺すところを見るのもいやだし、人がやるのに手を貸すのもいやだった。(p.236)
殺人ライセンスを持っている人間とは思えないなぁ、などと思い、ここらへん(自分が未見の)映画化する時にはどう改変したのだろう、と疑問になってググってみたところ、007 ロシアより愛をこめて - Wikipediaを見付けた。 映画版はほぼ原作通りの展開とのこと。 なるほど。 なお、このWikipediaのページには、映画が原作からいじった改変点にも触れられているので、未読の方は注意のこと。
ネタバレにならないと思うので書いてしまうが、数々の罠をくぐり抜けたボンドはラストでスメルシュに報復すべく、ある人物を狙う……のであるが、このラスト展開がスゴい。 「え、これで終わるの!?」と言いたくなる終幕を迎えてしまうのである。 これほど強い「引き」を残す作品を(書く|書くことを許される)とは、さすがはフレミングというべきだろうか。
ちなみに、作者であるこのイアン・フレミングが実際に第二次世界大戦中に、英国情報機関の情報員として活動していたのは有名な話だが、 先日読んだ『エニグマ・コード―史上最大の暗号戦』(ヒュー S.モンティフィオーリ)によれば、フレミングはなんと、あのドイツ側暗号機〈エニグマ〉を解読するための暗号書類を奪取する作戦を立案し自ら志願したとのこと(結局、実行はされなかった)。
本書でも暗号機〈スペクター〉が重要な小道具として登場していているので、フレミングと〈エニグマ〉の関係を考えると、なかなか興味深い。
- 東京創元社
- 987円
書評/ミステリ・サスペンス



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