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ぽっぺん日記@karashi.org


2008-12-05(Fri) [長年日記]

_ 敗北への坂道を転がりはじめたドイツを描き出す──第三帝国の興亡〈4〉ヨーロッパ征服(ウィリアム・L. シャイラー/William L. Shirer/松浦 伶) 第三帝国の興亡〈4〉ヨーロッパ征服(ウィリアム・L. シャイラー/William L. Shirer/松浦 伶)

ラジオジャーナリストであった著者が自身の目で見た歴史のワンシーンを交えつつ、ドイツ第三帝国の誕生から滅亡までを描く歴史ノンフィクション・シリーズ第四弾。

本書ではオランダ、ベルギー、フランスを降伏させ、大陸よりイギリスを追い落としたドイツの急進撃から筆を起こし、北アフリカ派兵、対ソ開戦を経て、歴史の転換点となるスターリングラードでの敗北までが語られている。

いちおう第二次世界大戦が守備範囲の軍事オタクのはしくれではあるのだが、知識はナンチャッテそのもの。 これまでの既刊シリーズに関しては、知らないことばかりで「なるほどねー」などと思いつつ読んできた。 しかし、本書がカヴァーするあたりは、第二次世界大戦でも有名な部分。 既知の範囲なので「あんまり発見がないかも」などと考えながら読み始めた本書だが、なかなかどうして新たな発見の連続で、実り多い読書だった。 何冊か類書を読んだだけで知ったつもりなるというのは、やはり傲慢だなと自戒した次第。

さて、まさに破竹の勢いで西ヨーロッパを制覇してきたヒトラーだが、進撃停止命令を出して、ダンケルクまで追い詰めたイギリス軍の撤退を許したことにはじまり、様々な失策を重ねていく。 イギリスの力を見誤ったためバトル・オブ・ブリテンで敗北し、 ユーゴスラヴィアのクーデター鎮圧のためソ連侵攻作戦──〈バルバロッサ作戦〉の発動を四週間遅らせ、地中海や中東の重要性を理解しなかったためロンメル率いるドイツアフリカ軍団に充分な支援を与えず、モスクワよりもレニングラードやウクライナを優先する──ドイツを勝利に導いたかもしれない、これらのターニングポイントでヒトラーは決断を誤り、ドイツは敗北の坂道を転がり落ちていくことになる。

その場の空気を肌で感じ著者の筆致は、やはり、一般の歴史書とは一味も二味も違う。 ベルギー軍兵士の粘り強い戦いぶりを強調する記述を読んだのは、たぶん、本書がはじめてだし、フランスの降伏セレモニーの描写は臨場感に溢れたものとなっている。

著者は1940年にアメリカに帰国したとのことだが、その後の歴史についても膨大な資料を駆使した取材により非常に読み応えのあるドキュメンタリーに仕上がっている。

戦後のニュルンベルク裁判で陸軍の将軍たちが述べたようには、彼らは対ソ開戦に反対していなかった──それどころか、それに賛成していたという事実や、海軍を率いていたレーダーがさんざんヒトラーに対米開戦を迫っていたことを著者は浮き彫りする。

また、ヒトラーに対する嫌悪を隠さない著者であるが、モスクワ攻略に失敗した後、ヒトラーが死守命令を乱発したことが戦線の全面崩壊を防いだと一定の評価をしているところは面白い。

日本人として興味深いのは、ドイツと同盟を結んだ日本が高度な外交を展開していたように描写されていることだ。 対ソ参戦を迫るドイツを言葉巧みに躱し、アメリカとの開戦時にはドイツも宣戦するように言質を取り付けようとする。 実際に、本書で描かれる日本の意図通りに歴史は推移する訳だが、敗戦までのグダグダな日本外交を知っている身からなると「本当かよ?」と言いたくなる話ではある。 世界情勢が読めないまま、のらりくらりとした外交を展開したところ、たまたま運良く意図した通りになったというのが実態だろう。 しかし、その結果が、完膚なきまでに叩きのめされての敗戦というのは歴史の皮肉だ。

最後に本書で残念だった点をひとつ。 前巻の読書感想の最後に

次巻では、西ヨーロッパ征服と大きな転換点となる対ソ戦が描かれる。

スターリングラード攻防戦がどう語られるのか、今から楽しみだ。

[第二次世界大戦勃発す── 第三帝国の興亡 3 (3)(ウィリアム L.シャイラー) - ぽっぺん日記@karashi.org(2008-10-01)より引用]

との期待を書いたが、本書でのスターリングラード攻防戦の扱いはかなりあっさり気味だ。 物足りない向きにはアントニー・ビーヴァーの傑作ノンフィクション 『スターリングラード 運命の攻囲戦 1942-1943』 (朝日文庫)を読まれることを強くオススメしたい。

いよいよシリーズ最終巻となる第5巻では、ドイツ第三帝国の滅亡が描かれることとなる。 楽しみに待ちたいと思う。

前巻までの読書感想



第三帝国の興亡 4

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書評/歴史・時代(F)

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スターリングラード 運命の攻囲戦 1942-1943 (朝日文庫) スターリングラード 運命の攻囲戦 1942-1943 (朝日文庫)
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